ごはんのおともフェア｜リアクション

ごはんのおともフェア

　ブラックウッド邸にて。
　稲積柚春はウォルター・Bと共に玄関の扉の前で、メアリ・エヴァンズに向き直った。
「それじゃ、行ってくるねぇ」
「はい、お気をつけて」
　笑顔を、向けてくるメアリに柚春は微笑み返し、
「行ってきます」
　そう言った。
　家を出ると、良い天気だった。
「なんか、普通に持ってるとちょっと恥ずかしいけど」
　二人の手には贈り物のもらった茶碗と箸。
最近、柚春の両親から夫婦茶碗と夫婦箸を送られたのだ。メアリの分も送ってくれていて、ブラックウッド邸ではプチ和食ブームが起こっている。
これから向かう『ごはんのおともフェア』でよい感じのおかずを持ち帰れればメアリも喜んでくれるだろう。
「恥ずかしい……かなぁ？」
　ウォルターが周りを見回す。
　人通りのある通りに出ると周囲を歩く人々の手には茶碗が握られていたりして、このイベントの認知度の高さが伺えた。
　ついにイベント会場へ。
「うん、良い匂いがするね」
「わあ……どうしよ？　どこからにする？」
　祭りの屋台の前に立った時のような高揚感がある。
「はいはい、ご飯よそるよ！」
　テントのおばちゃんが炊飯器を開けながら、声をかけてくる。
　白米を茶碗一杯に盛ってもらい、おかず探し開始だ。
「まずは、どうする？」
「んー、柚春のおすすめはある？」
　柚春は考える。
（生ものは日本以外では好まれないっていうから、生卵やたらこは上級者向けって感じだよね。納豆も匂いや食感が苦手な人は多いし）
せっかくの機会だ。美味しい和食を知ってもらいたい。
「随分悩むねぇ」
　ウォルターは苦笑いだ。
「色々あるから迷っちゃって」
「確かにねぇ」
「最初は手堅くふりかけ……これもパリパリ系からしっとり系まで色々あるね。あ、佃煮とか？　最近じゃ商店街やデパ地下の専門店より、道の駅やSAの土産物コーナーにあるのが人気で、わざわざ買いに行く人がいるしね。ワットが好きな食材の佃煮を探してみる？」
　捲し立てる柚春にウォルターはくすっと笑う。
「それから……っと、今日は僕がはしゃぎすぎかな？」
　それはそうと、突っ立ってても仕方がない。
「あ」
　柚春はそばにあったテントに歩み寄った。
「柚春？」
　柚春はそこでおかずをご飯にかけてもらった。
「はい、ワット」
　行儀は悪いが、人混みの中、見ている人はいない。
　箸ですくって口元に差し出す。
　バターとレモン風味の鮭ふりかけだそうだ。
（ワットはレモンが好きだし）
「あーん」
「！　あ、ああ。ありがとう」
　少し照れながらも食べてくれた。
「うん、さわやかな感じがするね」
　本当に気に入ったようで、自分のご飯にもかけてもらいに行っていた。しばらく見て回って、テーブルのみがある休憩スペースへ。立ち食いスタイルでご飯を頬張る人たちがいる。
「もうすぐお腹いっぱいになるよね。ワットはどう？」
「うん、どれも美味しいよ。和食は良いね」
　気に入ってくれているようだ。メアリへのお土産は悩みそうだが。
「柚春」
　振り返ると、すっと顎に手を当てられた。
「え？」
　おかずの乗ったご飯を箸ですくって、口元へ。
「あーん」
「んむ」
　あまりにも真剣な表情をするので、のまれてしまったが、ただの『あーん』返しだ。
「どう？」
「うん、美味しい」
　つい、ドキドキ。
「この佃煮気に入ったよ。メアリにも買って行こう」
　その佃煮はほんのりバターの味がした。ご飯にもよく合う。
「うん、良いかも」
　柚春は嬉しそうにそう言った。

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