寝子島の四季彩展・春｜リアクション

寝子島の四季彩展・春

　もうそろそろ夕方になる頃。
　月原想花は黒白滴と共に森繁美術館へと訪れていた。
　もちろん、四季彩展・春を美術が大好きな滴と見に行くために。

　美術館に行くのは、別に初めてのことではない。何度だって訪れている。
　特に時間を潰したいと考えた時に、図書館を使うほどではない時間潰しが必要な時には美術館で作品を見て回るものだ。
　けれど今日は特別な作品展が開かれるということもあって、真っ先に考えたのが滴と一緒に見てみたい、だった。

「ねこざくら……うーん、なんだろうこれ？」
「猫が桜なのか、桜が猫なのか。わかんないね～」

　最初に見たねこざくらの感想は、不思議な雰囲気と言ったものだった。
　寝子島に憧れて近年移住してきたばかりのアーティスト浜田清子の作品だが、彼女には寝子島がどう映っているのだろうか。

　次に二人が足を運んだのは、寝子ヶ浜海岸図。春の嵐に波打つ寝子ヶ浜海岸を描いた江戸時代後期の浮世絵師の作品であり、その雰囲気はあの葛飾北斎の絵を彷彿とさせていた。
　ねこざくらと海岸図、その２つの作品は想花に新たなインスピレーションを与えたようで、小説のネタとして使えるかも……と心に刻み込んでいた。

「わ……」

　最後に想花の目を引いたのは、春の虹。
　他の作品よりも仄暗い雰囲気が漂う作品だが、悲しさを感じさせないところが作者の手腕と言ったところ。
　アントワーヌ・アダンの絵が好きな想花は食い入るように見つめており、滴もしばらく目が離せずにいたようだ。

「この絵が好きなの？」

　滴からの問いかけに、ハッとなった想花。そういえば一緒に見に来ていたことを忘れていた。
　けれど彼女の問いかけには、うん、とはっきり答えを返した。どんなところが好きか、とまでは語ることはない。
　逆に想花はこれまで見てきた中で、滴が気に入った作品があったかどうかを問いかける。

「全部……って言ったらおかしいかな～？」

　そんな滴は、作品を１つに絞りきれないほどに楽しんでいたようだ。

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