猫とぼくの庭｜リアクション

猫とぼくの庭

◆２人きり、そして猫

　稲積柚春はウォルター・Bとデート中、ちょっと休憩に喫茶店へ立ち入ろうとしていた。そしてドアを開けた瞬間、目の前には想像だにしない光景が広がっていた。
　夜景の見える高層ホテルのようで、キングサイズのベッドが中央にあり、周囲は猫がご機嫌に破り散らかしたものや猫グッズが置かれている。猫はやんちゃなオスでまだ小さめ。好奇心旺盛なのだろうか。
　そして壁には「セッ〇〇しないと出られない部屋」と書かれている。しかしその垂れ幕も汚され破られて、全文を知るすべはなかった。
　ちょっと休憩で喫茶店に入るはずが、予想だにしない状況に少々混乱する。ただ歩き疲れていたのは事実なので、ひとまずベッドに２人で腰を下ろす。少し落ち着いてから、２人で部屋のなかを確認する。
　飲み物や食べ物は充実していて、本当にホテルのような佇まい。猫は変わらずテンションが高く、猫用アトラクションではしゃいでいる。入ってきたドアは外から鍵がかかっているかのように開かない。

「何かしないと出られないの？」
「そうかもしれないねえ」

　ウォルターが壁に書かれた文字に再び目を向ける。なにかヒントがないかと探索を続けるなかで柚春はクローゼットを開けた。

「ん？」

　そこに置かれていたものをふと手に取る。

「これは……猫耳カチューシャだ」

　他にも際どい衣装や謎のボトルが置かれている。ボトルを開けてみると、トロミが付いた液体が入っていて少し甘いにおいがする。

（なんだろう、これ）

　それが猫用のシャンプーだと気づくことは無かった。ウォルターは部屋の探索を終えて、ベッドで一息ついていた。柚春もその隣に座って肩を寄せる。

「ワットは何をする場所だと思う？」
「そうだねえ……」

　彼は困ったように俯いた。その視線は時折、柚春が調べていたクローゼットに向けられている。彼は大人なので、いろいろと考えるところがあるのだろう。猫は相変わらず部屋のなかで自由に過ごしている。

（２人きりと猫……子供と過ごす未来ってこんな感じかな）

　柚春は体を仰向けにしてベッドに横たわる。

（ワットとそんな未来が築けるなら、僕は……）

　そんな思考を遮るように猫が彼女の上に乗りかかってきた。ベッドの上で跳ねまわるので２人して猫の相手をする。２人の体力が底をつくかどうかというところで、ようやく猫は大人しくなってベッドで眠り始めた。

「元気な子だったね」
「本当にねえ」

　疲れ果てた２人も少し眠ろうかと思ったとき、ドアが開く音がした。顔を見合わせて、お互いに驚いている。何が理由で開いたのかは分からないが、２人はベッドから立ち上がって外に出た。

このページにイラストを設定する