エメラルドグリーンの海で｜リアクション

エメラルドグリーンの海で

　３月といえば、桜舞い散る春うららな季節。
　太陽の暖かさがぽかぽかと気持ちよく、少しだけ冷たい風が通り抜ける……はずが。
　なぜか、今日の寝子島だけは非常に暑い！　春は何処に行ったんだ！　誰だ気温スイッチ切り替えたのは！！　と言いたくなるほどに、本当に暑かった。

　おかげで、寝子ヶ浜海岸ビーチは大賑わいだ。
　時期が少しずれての海開き、エメラルドグリーンの海が広がっている。
　……本来の海の色とは少し違うのだが、まあ、それもいつもの不思議な寝子島ということで。

　そんな中で城山水樹はヒュー・ヒューバートに連絡を入れてビーチに訪れていた。
　色々あった関係性も少しずつ修復に向かっている２人。今日はすごく珍しいものが見れるから、と水樹の方からヒューを誘っていた。
　もともとは、SNSでエメラルドの輝きとなった海を見て気になったから、というのがあったのだが。

「……さん、がつ？」

　水着に着替えつつ、カレンダーを見つつ、ビーチの賑わいを見て首を傾げた水樹。
　ヒューもちょっとばかし首を傾げているが、今は３月なのは間違いない。異常気象とも言えるほどの暑さだが。

「時期外れだし、足元には気をつけて」
「あ、うん」

　本来であればまだ春の陽気が降り注ぐはずだが、今は夏のような暑さ。サンダル越しに伝わる熱は紛れもなく夏の季節のものであり、とてもじゃないが春とは信じがたいものだ。
　故にヒューは春のまま整っていない砂場を歩く際には、水樹の手を取っていついかなる時でもフォローできるようにしていた。

　キラキラと煌めくエメラルドグリーンの海。
　寝子島近郊ではまず見ることがほとんどないのだが、今日という日だけは「もとからありました」と言わんばかりに鎮座していた。

「これ、凍らせたらエメラルドになりそうじゃない？」
「どうだろう、どっちかというとメロンゼリーっぽくなりそうな気もするが……」
「メロンゼリー。……うん、それもあるかも？」

　なんて２人で笑い合いながら語りつつ、そっと海へと入ってみる。
　３月の海なのでその冷たさは普通の夏の海よりも冷たいが、それでも今日この日に限ってはこの暑さを凌ぐには最適な水温となっており、足元からじんわりと冷たくなっていくのがよく分かる。

「それっ！」
「うわっと！？」

　そこへ、いきなり水樹がヒューに向けて水をばしゃんと吹っ掛ける。まるで子供が大人に向けて悪戯をするかのような、してやったり、という表情を見せている。
　それに応対してヒューも両手に掬った水を水樹に向けてやり返した。水樹がかけてきた水よりも、もっと、もっと、たくさんの水を掛けるように。

　ばしゃばしゃと水を掛け合いしていたら、あっという間にずぶ濡れになった２人。
　今度は追いかけっこをするかのように少し離れた沖合へ泳ぎ、少し泳いだ先で揃ってプカプカと浮かぶ。

　隣に、彼が、彼女が、いる。
　２人が浮かぶ海の真ん中ではそれだけが実感できる空間となっていた。

「お腹すいたね。戻って何か食べる？」
「ああ、そうだな。このまま浮かんでいたいけど……そうもいかないしな」

　そうして２人はお互いが『いる』と実感してから、陸に戻って他愛のない会話を交わしつつ、パフェとかき氷を購入。
　飲食スペースに立ち寄った２人は更に会話を繰り広げて、一日を過ごしていく。
　暑さなんて忘れるほどの、２人だけの熱をほとばしらせながら。

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