いにしえの京を感じながら｜リアクション

いにしえの京を感じながら

「映画村か……ワットの好きな作品はあるかな？」
　映画村のイベントの話を聞いた稲積柚春は、ウォルター・Bに声をかけた。
　そして休日のある日、デートにやってきたのだった。

「映画村って、時代劇だけじゃなくいろんな作品を撮っているんだねぇ」
　入口で説明を読んだウォルターの言葉に、柚春が答える。
「配給や制作をしている会社が同じでびっくりする作品もあるよね。例えば街並みは時代劇なんだけど、常設展は特撮ヒーローだったり、魔法少女だったり。
制作会社が同じ縁で、特撮ヒーローの映画は毎年映画村で撮影されているらしいよ！」
「詳しいんだねぇ」
「……えへへ、デートが楽しみで予習しちゃった」
　なるほど、という表情になったウォルターが、案内板に目をやる。
「今日は平安のお菓子作りイベントに十二単体験をやってるのか」
「今日やってるイベントもチェックしてきたけど、お料理はワットが苦手でしょ？」
　認めないかもしれないけど、と思いながら柚春は言う。
「僕にかまわず稲積が作っていいのに。それじゃ十二単を着る？」
「和装も……動きにくいかなって」
（それにワットが格好良すぎて注目されちゃうし）
　観光客も多いので金髪で十二単を着る外人もいそうだが、ウォルターがこの時代の衣装を着たらリアル光源氏になってしまうに違いない、と柚春は思うのだ。

「でもね、ここに来たらワットの好きな物がわかるんじゃないかなと思ったの」
「僕の好きなもの？」
　食べ物、色、映画……、レモン以外に彼の好きな物がわかるといいな、と思う。
　直接教えてくれなくても表情を見逃さないつもりだ。
「意識してなかった物が好きだってわかるかもしれないし、今日気に入ってしまうかもしれない。それでも『好き』に変わりはないから……ワットの好きなもの、今、目に入っている物をひとつでも多く知りたいな」
（そこに僕は入っているよね……？　ちゃんと言ってくれたら嬉しいんだけど）
　とも思う柚春だった。
「僕の好きなもの……」
　ウォルターは考える。
「とにかく、いろいろ見てみようよ！」
　柚春は先に立って歩き出した。

　人だかりの方へ進むと、時代劇のロケをやっていた。
　ウォルターが目を輝かせる。
「あ、甘えん坊将軍だ。そういえば子どもの頃は僕もチャンバラが好きだったなあ」
「えっ、そうなんだ！　かっこいいよね！」
「そうだね、日本に遊びに来た時にドラマを見て気に入って、真似をしたりしてた」
（子供時代のワット、チャンバラごっことかしてたのかな？　可愛い）
　想像すると楽しくなってしまう。
「教えてくれてありがとう！　もっと色々知りたいな」
　瞳を輝かせ、腕に抱きついて感謝する柚春。
（それに、僕のことも色々知ってほしい）

「そう言う稲積の好きなものは？」
　内心の声が聞こえたかのように、ウォルターが尋ねた。
「もちろんワット！」
　と答えて。
　柚春は素早くウォルターの頬にキスした。
「あ、こら、人前で……」
　ちょっと焦った風に怒って見せるウォルターに笑いながら、柚春は手を引いて進みだす。
「どこに行くんだい？」
「やっぱり甘味づくりに挑戦しようかなと思って。ワットが気に入ってくれるかもしれないし」
「そうだね、せっかくだから体験しないと」

　二人はその後、平安のお菓子作りに挑戦したのだった。

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