幻想釣紀行｜リアクション

幻想釣紀行

◆異世界で釣り

　月原想花はいつのまにか霧の深く立ち込める森へと迷い込んでいた。

（少なくとも寝子島じゃないよね）

　彼女はあてもなく道らしきところを進む。あちらこちらの岩場からランタンのような灯火がぼんやり浮かび上がり、幻想的な雰囲気に包まれる。時折変わった生き物に出くわすものの、敵対的な様子もない。その状況にかなり安心していた。

（いきなり知らないところに飛ばされた上に襲われるのは流石に……）

　その後も何事もなく細道を抜け出ると、そこには泉があった。しかも釣り具の貸し出しやレストランも備わっている。

(こんなところに釣り場があるなんて)

　予想外ではあったが、やはり危険な空気は一切ない。折角なので釣り具をレンタルしようと店舗に向かうと、対応した店員は人間のように立って歩く猫だった。猫は快く道具を貸してくれたし釣りのやり方も教えてくれた。しかし身振り手振りで説明してくれるものの、話す言語が違うから今ひとつ要領を得ない。それでもある程度店員の伝えたいことは理解できたので、それに沿って実践することにした。
　さっそく泉で竿を思いっきり振りかぶり、餌をつけた釣り針を投げ込む。しばらく待っていると竿の先が何度か引っ張られる。

（何かが餌に興味を持ったのかな）

　そう思った次の瞬間、引く力が一気に強まる。想花は慌てて竿を握りしめる。引き合いの格闘の末、釣り上げたのはフワフワミズチだった。釣り上げてみれば羽のように軽く、先ほど感じた引きの力が嘘のようだ。
　その次に釣り上げたのはツキノツカイ。天使の輪のようなものが頭についている小魚だ。突如、想花の視界に幸福な幻覚が浮かび上がる。しかし魚が逃げようとしていることに気づくと、幻覚を追い払った。

「こんな逃げ方があるんだね……今後の参考にしよう」

　作家志望の彼女にとってこういった経験は糧になる。釣りの感覚もつかめてきたところで、彼女は餌をコンゴウセキに変えた。店員の説明を要約するとカミツキタイマグロという魚はこれで釣れるらしい。
　釣竿をふりかぶり、再び泉のなかへ。水面を眺めていると、今までとは違う感触があった。糸を引く力が少し強い。餌を啄むというよりかじりついているかのようだ。
　そして次の瞬間訪れた、明らかに強い引き。

（これは食いついたかな！？）

　負けじと踏ん張りなんとか釣り上げると、鯛のような、あるいはマグロのような大型の魚が現れた。地上に出ても餌のコンゴウセキをガリガリかじっている。その姿を見てこの魚の名前の由来を思い出していた。それから１時間ほど続けたが、これ以上は釣れなかった。

（こんなものかな……これだけあれば食べ応えは十分ありそう）

　それらをレストランで調理してもらったら、とても美味しかった。自分で釣ったという満足感も合わさって、食事中はただただ幸せだった。

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