幻想釣紀行｜リアクション

幻想釣紀行

◆今日一番の大物

　倉前七瀬はいつものようにふらりと散歩に出かけた。しかしいつの間にか周囲は霧深い森へと姿を変えていた。

（どうやら不思議な世界に来てしまったようですね）

　異変に巻き込まれたものの、これといって危険な存在も感じられない。一応警戒しながら歩みを進めると釣り場と思われる場所に出た。そこには釣り具のレンタルショップや釣った魚を調理してくれるレストランも備わっていた。

「ふむん、せっかくやけん釣りをしましょう。釣った魚を調理してくれるレストランもあるとですか？　じゃあ、美味しい魚を狙いますねぇ」

　レンタルショップの店員は人間のように立って歩く猫だった。言語が違うため言葉でのやりとりは困難だったが、好意的な対応で釣竿を貸してくれた。七瀬はえいや、と竿を泉に投げ込んでのんびりと待つ。途中何度か引きが来るものの、魚に感付かれて失敗。

（なかなかうまくいかないものですが、焦りは禁物ですよね）

　めげずに再挑戦を繰り返す。ふと他の釣り人の気配を感じて顔を上げると、ウォルター・Bの姿があった。

「おや、ウォルターさん。奇遇ですねぇ！」
「倉前か！」

　まさかこんなところで会えるとは思わず、魚より良い当たりを引いた気分だった。２人で並んで釣り竿の先を眺める。

「ウォルターさん、一緒にニジマダラハネクジラを狙いましょう」

　それは虹色のグラデーションを描いて脈動する、美しい鱗を持つ巨大魚。この釣り場の目玉となる大物で、味も絶品らしい。

「このままボウズで帰るわけにはいきません」
「それはたしかに」
「それに、ウォルターさんと一緒なら釣れる気がするんですよね」

　そのとき、竿を握る手が引っ張られるのを感じた。

（……強い！？！？）　

　１人で釣っていた時とは比べ物にならない力だった。

「今までにない力の引きです……ウォルターさんヘルプ！　僕が引っ張られないように体支えてください！！」
「わかった！」

　ウォルターは七瀬の腰に手を回して力を込めた。気を抜けば体ごと泉に引き込まれそうだ。

「うおおおお！！」

　踏ん張りを効かせてなんとか釣り上げた。外見の特徴から、これが先ほど話題に出たニジマダラハネクジラだろうと推察した。

「やりましたよウォルターさん！」
「おめでとう倉前！」

　やり遂げた２人はそれをレストランに持っていき、調理してもらった。

「とっても疲れました。けど、それ以上に楽しかったですね！」
「そうだねえ」
「料理もすごく美味しいです」

　味も聞いた通り絶品で、とても満足な気持ちだった。

（でも今日一番の大物は、やっぱりウォルターさんかな）

　ふふん、と七瀬は笑った。

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