【にゃんにゃんふにゃ～ん】

　レシピ本をいくつか購入して、珪先生のお好みや喜んでくれそうなチョコについても見事情報をゲット。さあ、さっそくチョコづくり！
　と、その前に。
「今日はご両親は？」
「お仕事なのでいないです。共働きなので」
　つるぎを案内したのは、旧市街の綾辻家。ふだんは猫鳴館から寝子高へ通っている綾花、今は帰省中なのです。
　こじんまりとして、縁側のむこうには小さなお庭もある、寝子島の旧市街によくみるような、ふつうでかわいいお家です。お父さんもお母さんもそろってお役所勤め、なもので厳格でちょっぴり厳しい……のかと思いきや、
「ほほう。これはこれは」
「あはは。うちは家族みんな猫好きなので。かわいいでしょ？」
　猫猫猫。ねこねここねことにかくにゃんこ、猫グッズのてんこもり！　猫ぬいぐるみに猫フィギュア。テーブルの上のカップにも猫、お皿にも猫、テーブルクロスにも猫……書棚には猫写真集もみっちり。どっちを向いてもそこらじゅう、猫の顔やら肉球だらけ。とにかくかわいらしいのでした。
「綾辻ちゃんのにゃんこ好きな理由がわかった気がするよ」
「つるぎさんも猫好きだし、お母さんもお父さんも気に入ってくれると思います。紹介したかったんですけど」
「そんじゃ、次の機会にまたよろしくッスよ～」
　まあおふたりが在宅の折、２月に娘さんがキッチンでチョコレートの甘いかおりなぞ漂わせようものなら、お母さまは興味津々で誰にあげるの？　どんな子？　年上それとも年下？　かっこいい？　とかなんとかあれこれ聞いてくるに決まってますし、お父上はさりげな～く聞き耳たてて、そのうち見てられないくらいそわそわしだすに決まってます。なので今回は、不在のあいだに済ませてしまうことにしました。
　つるぎをふたりへ紹介するのは、また今度。かわりに、つるぎに紹介する綾花のかわいいかわいい、妹弟たちがおりました。
「今はリビングで寝てると思います。日当たりのいいところがお気に入りなので」
「だいじょぶ？　臆病な子たちだったりする？」
「ひとなつっこいので大丈夫ですよ」
　かちゃりと扉を開けますと。
　にゃ～ん。にゃ～。うにゃ～？　ふにゃ～ん！
「これはこれは。こーれはこれはこれはこれは……」
　２匹のにゃんこがとてててて。嬉しそうに駆け寄ってきて、綾花の足元にすりすりすりすり。
「かかかかかかわわっ」
「ふふふ。こうふんしすぎですよ、つるぎさん」
　綾辻家で飼われている２匹はどちらも警戒心が薄くて、初めてのひとにもふにゃにゃ～んっと甘えてお腹を見せたり、あそんであそんで～っとすりすりしたりするもので、綾辻家をおとずれるお客さんにも大好評なのでした。
　もちろん猫好きなつるぎも、デレッデレ！　であります。
「ふおおおお。なんちゅー愛らしさ！　お、お名前は」
「茶トラの子はメスで、名前はモモです。私がつけました。黒猫のほうはオスのこんぶです。お父さんが昆布茶を飲みながら決めたんです」
「わはは、いいセンスしてるなあ。どれ、モモ～、こんぶ～。おいでおいで。つるぎおねえさんが、いいものをあげるッスよ～」
　なになに？　と寄ってきた２匹のにゃんこへ、ぱ、とつるぎが手のひらを見せてやりますと、にぼしがふたつ。綾花がおやつに、と渡したものです。
　茶トラのモモがまずは、ぱくり。はぐはぐはぐ。黒猫のこんぶはつるぎの指先をぺろりとして、くんくんにおいをかいでから、ぱくりもぐもぐと食べました。つるぎは手をたたいて大喜び。ひとまわり年上のお姉さんですけれど、綾花はなんだか同い年の友だちみたいに見えて、ほほえましくて、笑ってしまいました。
「いやあかわいい！　にゃんこ成分が満たされるよ」
「OLDLYNXにはにゃんこ、いませんよね。古書店で猫ってダメなんですか？」
「ダメってこたないし、わたしも飼えるもんなら飼いたいけどねえ。でもやっぱ、貴重な本で爪とぎでもされちゃった日には困るわけ。まったぶん、許しちゃうけどニャア～」
　なのでどこかで猫成分を摂取する必要があるのだうむ、とマジメくさって言いました。
「だから今は、前に写真見せたっけ？　じいちゃんとこの猫にたまに会いに行ったりしてるよ。けどこれからは、モモとこんぶにも会いに来られるかな？　また来てもいーよね？」
「はい、もちろんです！」
　モモのおなかに顔をうずめておもっきし吸うつるぎ。右手はこんぶをなでまくりの二刀流。ご満悦です。
　そんな姿を眺めていると、綾花もなんだか、幸せな気分にひたることができました。



　さてキッチンへ移動し、いよいよチョコづくりです。珪先生はワイン好きなので、先ほどのリサーチをもとに、ワインに合ったチョコレートをつくります。ワインのほうも、つるぎが見繕っていっしょにプレゼントすることにしました。
「いくつか組み合わせを試しましょうか。甘めの赤ワインには、ガトーショコラやドライフルーツのチョコがけ。マンディアンもいいですね。白ワインにはナッツ入り。ホワイトチョコレートも良さそうです」
「うん、試食と試飲はまーかせて」
　がさごそとコンビニ袋を探って取り出したのは、先ほど買ってきたワインのボトルが２本。いずれも５００円から１０００円くらいの安いものですけれど、チョコとワインのペアリング、そこから生まれるマリアージュを試すにはちょうどよいことでしょう。
「美味しいチョコをつくりましょう！」
「おーっ」
　気合じゅうぶん、レッツクッキン！