手作りお人形マーケット！｜リアクション

手作りお人形マーケット！

【お人形の願い事】

　人の賑やかさがある程度、安定してきたお昼過ぎ。
　そのじっくりと堪能できる時間に、水上桜は人形の展示マーケットを訪れた。
　展示売り手である人にとっては、同好の士による実質的な交流会も兼ねている事もあり、客足が落ち着いてきてもブース内は変わらぬ賑やかさを保っているようだった。客はじっくりと人形を堪能でき、ブース側も楽しいという、ある意味では理想的な時間とも言えるだろう。

「さて、と」
　桜が歩きながら見渡せば、そこにはハンドメイドで作られた人形というインスピレーションの宝庫だった。桜自身、ハンドメイドでアクセサリーを作る趣味の関係で、インスピレーションという何時でも新しく心に響く切っ掛けは、とても大事なものなのだ。
「あ、あのゆるキャラのぬいぐるみ可愛い。オリジナルかな……？　それで、あっちはドールがメイン」
　ブースをひとつひとつ、じっくりと観察していく。見れば全てのパーツが紙で折られた繊細な和風人形や、大きなあみぐるみまで展示しているブースまである。
　それはまさに、目にすればするほど奥深い世界。
「うん、一括りに人形って言ってもかなり幅広いかも」
　最初は、新しい空間を目にして自分のアクセサリー作りに役立てればという思いもあったが――気がつけば。それを置いても、展示された人形たちを見て回ること自体がとても興味深くて面白く、そして何よりこれだけバラエティに溢れていればこの上なく楽しい。

　桜があちこちを見て回りながら、改めて通路を歩く。
　すると、広がったのは神秘的なドールの世界。19世紀のヨーロッパの夜会などをモチーフにした人形が並ぶブースはとても豪奢で華やかだ。
「――」
　殆どがケースに入れられたその中で一点、ケースの外に出された人形が、桜の目に飛び込んできた。
　シックな黒の衣装を着て、それでも尚華やかな金の髪をした人形が、綺麗に澄んだ赤い瞳で、じっとこちらを見ているような気がして――桜が引き寄せられるようにブースへ向かい、売り子に手にとっても良いかを尋ねれば、簡単に『是非どうぞ』と笑顔で帰ってきた。

　高級そう過ぎて芸術品を思わせるそれに、ほんの少し緊張しながら両手でそっと触れて慎重に抱き上げる――すると、
『あーあー、うん、聞こえていそう！
　ごきげんよう。あなたからも作ってくれた創り手さんやここの人たちと同じ雰囲気がするわ。あなたも何か作ったりするの？』
「えっ、わ――っ」
　突然聞こえたお転婆そうな少女の声。桜が思わず、売り子さんの目に入らない所で一瞬人形を落としそうになるが、ギリギリで取り戻す。
『知ってるわ！　こういうのを【紐なしバンジージャンプ】っていうのよね！　でも壊れちゃうから許して！』
「う、うん。ごめんね、突然人形が喋るなんて思わなくて……」
『今日はきっと不思議な日なのね！　他の人にも私の声が聞こえたりするのよっ。だから私、今日は創り手さんの趣味の真似をしているの。
　題して～【直感占い！】良かったら今週の運勢を占わせて？　私も、自分の創り手さんみたいになってみたいの！』
　何やらネーミングセンス皆無が伝わってくる名前にツッコミもままならないが、少なくとも楽しそうな人形に悪気はなさそうで。
　桜は驚きを隠せないままながらもこくこくと頷いてみた。

『それじゃあ～、えいやぁっ！
　うん――【うっかりと連絡ミスに注意。でも、勉強の復習や今までの振り返りをして、次の機会に活かすのにとても良い一週間ー！】だって。私の直感が告げているわ！　凄い、私本当に創り手さんみたい！』
「……う、うん」

　何しろ良く分からない名前と行動の割に、言っている内容は思いの外まともであり、若干当たっているのか外れているのかの判断もつかない。
　しかし――桜の両手からはしゃぐ人形は、自分の創り手の真似が出来たと、とても楽しそうな雰囲気で喜んでいるのが伝わってくる。
　このような日だ。たまにはこんな余興に付き合うのも悪くないかも知れない。そう、改めて桜は思い直して、人形に頷いてみせた――

このページにイラストを設定する