君も私もアイドルに！？｜リアクション

君も私もアイドルに！？

◆舞台の裏側と観客席
　
　一方、裏方では夢乃がインタビュアーとして色んなアイドルに話を聞くために走り回り、撮影も行っていた。忙しいアイドルのためにロケ弁の差し入れも欠かさない。
　質問は『アイドルになったきっかけ』や『どんなアイドルを目指すか』といったもので、アイドルたちもステージへの出入りが慌ただしいなかでそれぞれの答えを夢乃に話す。その内容に夢乃は頷き、共感し、励まされる。

「アイドルは輝きです。必ずしも歌ったり踊ったりする必要はありません。この風が吹いている今なら、皆さん一番の輝きを見せてくださると思うのです」

　そして彼女の瞳も輝いていた。ライブはDVDに収録し、出演者にグッズと共に配布しようと考えている。忙しなく動き回りつつも、空き時間にはペンライトを振ってライブを力の限り応援していた。
　ライブはステージ上のパフォーマンスはもちろんだが、観客自身が盛り上げようという意志を持っているとさらに輝く。

「熱気すごい……！　はぐれないように気を付けなきゃ」

　千恵は観客席で圧倒されていた。ステージで行われるライブパフォーマンスの完成度にただただ驚く。

「ふあ、最近いっぱいアイドルみれて素敵だよぉ。あんな風にできるかな……？　え、やめたほうがいい？」

　目立つから、とかんながぼそっと呟いた。千恵は『あいおシスターズ』の根っからのファンで、『あいおシスターズ』『こっち見て』と書かれたうちわをそっと持っている。

「あいおシスターズです！」

　ステージにあいおたちが登場すると、千恵の目がいっそう輝いた。

（……大勢の人の中で見つけてくれるかな？　目が合うだけでもすごいことだよね）

　彼女たちに千恵の姿が見えたかは分からない。けれどこちらに手を振ってくれたような気がした。
　稲積柚春とウォルター・Bも合同ライブを見るため寝子電スタジアムにやってきていた。寝子島高校の先生も何人か出るということで在校生の柚春は楽しみにしていた。事実、美和先生や俊介先生が出た時は思わずはしゃいでしまった。

「突然アイドルなんてびっくりしちゃったけど、ワットもアイドルだなんて言い出さないよね」
「僕は違うかなあ」

　ウォルターはかつてバンドをしていたらしいが、柚春は彼に対してアイドルよりもマネージャーが似合うのではないかと思っていた。

（ワット、音楽が苦手だし）

　しかし今やアイドルといっても様々だ。
　レベルの高いダンスを売りにしていたり、トークのうまさを活かしてバラエティ番組で活躍する人もいる。

（担当はドラム……確かベースよりリズム感なくても大丈夫らしいけど、音楽がどう苦手かは知らないし、喋れば毒舌なのもキャラとしてありだけどアイドル向きじゃないよね）

　音楽と一言でいっても歌を歌うこととリズムを刻むことは内容が全然違うので、ウォルターはもしかしたら音程が関わる要素が苦手なのかもしれない。思考にふける柚春にウォルターが話しかける。

「どうかしたかい？」
「ワットはアイドルというよりも、そういう人をまとめるのが向いてそうだなって思っただけ」

　そんな話をしているうちにライブが幕を開けた。ステージも観客も熱狂的な盛り上がりを見せる。柚春はその興奮を伝えようと隣にいるウォルターに話しかけようと思ったら、いなくなっていた。

（あれ？　どこ行ったんだろう？）

　周囲に視線を向けると、なんとステージの上に彼の姿があった。しかも赤を基調としたステージ衣装を身にまとっている。
　驚いている暇もなく次の曲が流れだした。曲は１０数年前、忽然と姿を消した伝説的男性アイドルのもの。さらにウォルターがセンターで踊りだした。神魂の影響もあるかもしれないが、パーフェクトなステップを披露する。しかもファンサも完璧だ。柚春のほうを見ながら手を差し伸べる動作を見せる。

（すごい……ワット、完全にアイドルだ！　マイクは入ってないから口パクだけど！）

　けれどそんなことは全然気にならなかった。曲が終わるとウォルターは深く一礼してステージの端に消えた。
　その後もアイドルたちの活躍は続き、最後まで盛り上がったままライブは幕を下ろした。

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