命がけのＹＵＫＩ－ＧＡＳＳＥＮ｜リアクション

命がけのＹＵＫＩ－ＧＡＳＳＥＮ

◆雪だるまの魅力

　八十八旗信彦は大学受験を控える身。しかし期末試験で英語だけ赤点一歩手前だったため、重点強化科目として年末年始に集中的に勉強をした。しかし苦手科目を長時間勉強するのは彼にとって苦痛でしかない。
　さらに恋人からは『受験勉強の邪魔をしたくない』という理由でデートを断られている。折角の冬休みなのに、勉強をするしかない現状はストレスに拍車をかけた。

「こういう時こそ気分転換だろ」

　自分に言い訳しながら散歩に出かける。現実逃避だと彼自身も分かっていた。外は夜半に降った雪が積もっている。肌寒さはあったが、太陽の光がほどよく差し込んでいるおかげで過ごしやすい。気晴らしという目的は達成できそうだと思った矢先、どこからか声が聞こえてきた。

「私の名は雪だるマン！　少年よ、さあ、私と雪合戦をしよう！」

　声のほうを向くと、しゃべる雪だるまがいた。バケツの帽子をかぶり、目にはどんぐり、鼻にはにんじんという『これぞ雪だるま』という出で立ちだった。

「雪合戦？」
「そうだ！　ちなみに雪玉に当たると君も雪だるまになる！」
「は？」

　信彦の了承を得る前に雪だるマンが先制攻撃を仕掛けてきた。咄嗟に避けるも、勉強漬けで鈍った体ではいつまでも躱し続けることができない。雪玉をぶつけられた部分から雪が広がっていく。

「雪だるまになるってマジか……！」

　払いのける間にも何発もぶつけられてしまい、全身が雪に包まれていく。自分が雪だるまになるんだと嫌でも察してしまう。建物のガラスに反射する自分の姿を見て、驚いた。

（シミ一つない白い肌、高い鼻、凛々しい眉、曇りなき瞳、包容力溢れる体躯、身に纏うクールな空気、ワンポイントカラーでオシャレな着こなしのマフラー……！）

　そのとき、信彦に悲観的な感情はなかった。

（なんということだ……雪だるまが、こんなイケメン要素で溢れる存在だったとはッ！？　チビッコはもちろん、レディ達からもモテモテなんじゃね？）

　彼にとってそこは重要な点だった。意識が無くなる直前まで願望を脳内に連ねる。

（メンバーを増やせば、メンズアイドルグループ結成とか行けるんじゃね？　ドーム、いやワールドツアーだって夢じゃなくね？）

　そして完全に雪だるまになった彼は、まるで仲間を増やすのが使命とばかりに駆けだした。しかしその先であっさり帽子に雪玉をくらってしまい、すぐ元の姿に戻った。

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