命がけのＹＵＫＩ－ＧＡＳＳＥＮ｜リアクション

命がけのＹＵＫＩ－ＧＡＳＳＥＮ

◆渾身の一投

　梓智依子は娘の楓と雪の積もる寝子島を歩いていた。どうやら昨日の夜に降ったようだ。雪を目の前にして楓はすっかりはしゃいでいる。その様子を見守っていると、突然後ろから声を掛けられた。

「私の名は雪だるマン！　少女よ、さあ私と雪合戦しよう！」

　その姿はまさに雪だるまだった。
　頭にはバケツの帽子、目にはどんぐりのような木の実、鼻にはにんじんを付けている。腕は細い枝で、先には手袋が引っかかっている。そして首には青いマント。
　智依子は着ぐるみかと思ったが、明らかに雪だるま本体だった。

（なぜ雪だるまがしゃべってるの？）

　彼女の困惑をよそに、楓は大興奮だ。
　雪だるまがしゃべっている状況に彼女の好奇心がおおいに刺激されているのだろう。そこへ雪合戦しようと誘われたものだから大喜びしている。

（楓もやりたがっているし、仕方ない）

　こんな機会もなかなか無いだろうと思い、雪合戦に付き合うことにした。しかし、雪だるマンの発言に耳を疑った。

「雪玉に当たると君たちも雪だるまになるが構わんな」
「え？」

　そう言った直後、雪だるマンが雪玉を投げてきた。咄嗟に楓をかばうように飛び出すと足に当たってしまった。すると当たった部分から雪が広がっていく。智依子は慌ててその雪を払い落とした。そして先ほどの発言が冗談ではないことを理解する。
　すぐさま智依子は楓を連れて物陰に隠れる。楽しく雪遊びするつもりが、一気に物騒なことになってしまった。

（大丈夫、私なら出来る……）

　いちど深く息を吸った。智依子はかつで天才と謳われたダンサーだった。春の新歓祭の時にストリートダンスを披露してから、その時の血が疼くようになったのか、時折踊るようになった。その時の感覚を頭と体で懸命に思い出す。
　物陰に隠れつつ機会を見ては雪玉を投げつける。しかし雪だるマンも簡単に当たってはくれない。
　楓も雪玉を作って参戦する。彼女の投擲は残念ながら届かないが、せっせと雪玉を作るので弾丸には困らない。
　智依子は集中して雪だるマンを視界の端に捉える。次の瞬間。針穴を通すような一投が智依子の手から放たれた。それは吸い込まれるように雪だるマンのバケツ帽子を弾き飛ばした。その途端、太陽の光で頭部から溶け始めた。

「ぬああああああ！！　まさか負けるとはああああ！！」

　その言葉を最後に雪だるマンはただの水になった。智依子は勝ったことを理解すると、その場にへたりこんだ。

このページにイラストを設定する