霊界クリスタルイリュージョン｜リアクション

霊界クリスタルイリュージョン

　綾辻綾花は自分の口から漏れる息が白いことに気づき、わざと息を吐いた。
「寒い？　綾辻さん」
「大丈夫です」
　早川珪先生とお出かけ中に迷い込んだ霊界の冬のお祭り。なんとなく不安に思って手を繋いだら、そのまま離すタイミングを失ってしまった。
（せっかくですし……先生がいいなら）
　なんだか幸せな気分になる。
　辺り一面雪景色、氷のオブジェには揺らめく炎が光っている。
「珪先生、綺麗ですね」
「ああ、凄い彫刻だね」
「本物の氷でこんなに細かい彫刻は初めてみました」
　よく見ると、氷像の中で魂の炎が揺らめいていた。様々な像がそびえたち、スターダストと相まって、きらきらと綺麗だ。
　二人は遊覧船に乗ることにした。
「わあ……」
　湖面が輝いていて、神秘的だ。
「そこのお兄さん達～。何か温かいものでもどうだい？」
　近づいてきた船は木製のそれで、飲食物を売っているようだ。中年の男性が優し気に笑っていた。
「何にする？」
「あ、じゃあ」
　自分の希望を言うと、珪先生もスープ系の飲み物を頼んだようだ。
　取っ手付きの丈夫そうな紙コップに並々と注がれたコーンスープ。
「ありがとうございました～」
　湯気が上るコーンスープを一口。喉に落ちて、じんわりと温かさと濃厚な味が広がった。
「ん、美味しいです」
「こっちも味が良いな。飲んでみるか？」
　渡されたコップからは香ばしい匂いが。コンソメスープのようだ。
「はい、頂きま」
　そこまで言って、気づく。このままだと珪先生と間接キスになるのではないだろうか。
「どうした？」
「あ、その風邪気味のような気がするので、口をつけたら先生に移しちゃうかもしれなくて」
「今朝体調は凄く良いって言ってただろ？　僕は気にしないさ」
「……いただきます」
　綾花は少し躊躇いながらも一口。コンソメの良い香りがする。
「！　美味しいです」
「ああ」
　スープを返すため、彼に身体を寄せる。と、その時。
「先生、ぬしですよ！」
　湖面から姿を現したのは噂に聞いていた湖に住むぬしだった。

「おお、まさか見られるとは思わなかった」
　記念にと写真と撮ったところで、陸へ戻ることにした。
　向かうは氷のお城ホテルだ。すでに予約済みなので、すぐに部屋へ案内された。
　温泉に浸かった後、夕飯を食べて、自分達の部屋へと戻ってきたのだが、
（この状況、凄くドキドキする）
　まさか同室で、ダブルベッドだなんて。
（先生は普通に見えるけど）
　ほとんどが光っている透明な氷で出来た部屋である。廊下側は曇りガラスならぬ、曇り氷になっていた。照明代わりの魂の炎が綺麗だ。
　珪先生はこほんと咳払い。
「もう良い時間だ。寝ようか。部屋は他に空いてないみたいだし」
「そう、ですね。明日は巨大ねこがハートをも持っている氷像を見に行きたいです」
「そうか」
　珪先生は笑って、自然に近くのソファへ転がった。いつの間にか掛布団も持って来ていた。
「え、先生」
　綾花はダブルベッドと早川先生を見比べる。
「ベッドは綾辻さんが使ってね」
「でも先生、ダブルベッドですし」
　綾花が言うと、
「二人で寝たら、布団がズレて風邪を引くかもしれないからね」
　さらりと断られてしまった。
（まだ子供だって、思われてるのかもしれませんね）
　綾花はため息ついて、ベッドに入る。
（いつか、大人として見てくれたら）
「綾辻さん」
「！」
　ソファに寝転がりながら、微笑む早川先生。
「今日は楽しかったよ」
「……！　はい」
　幸せな気分だった。

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