小さな幸せを探して｜リアクション

小さな幸せを探して

◆小さな幸せ、見つけた

　時には思わぬ不運にいくつも見舞われることがある。
　小山内海はまさにそういう日を迎えていた。
　使おうと思っていた画材が無くなっていたり、いつの間にかストッキングが伝線していたりと、今日はなんだかついてない気がする。
（ちょっとお昼は気分転換に外に食べに行こうかな）
　海はそう思い至って支度し、外に出る。冬の空の下、足を向けたのはファミリーレストラン――サイゼリニャの寝子島支店だった。

　サイゼリニャに来店すると、賑やかな店内が目に飛び込んできた。
（やっぱりお昼時だからちょっと混んでるね）
　店員に案内された海は空いている席に着くと、メニューを見て何を頼もうか考える。
　人の入りは多いが、ゆったりとした雰囲気に浸れる店内だった。
（何食べようかな。今の気分は……ハンバーグかな）
　あれこれ考えると、気持ちも次第に上を向いてくる。
『ハンバーグとライスのセットをお願いします』
　海はスケッチブックによる筆談で店員に注文した。

　料理が運ばれてくるまでの待ち時間はスマホで暇つぶし。
　そう思っていたけれど――

（……あれ、電池切れてる……）

　海は予想外な出来事に遭遇する。
　いつの間にかスマホのバッテリーが切れていたのだ。
（むぅ……やっちゃったなぁ。ちゃんと充電器においてと思ったんだけど……ずれてたりしたのかな）
　海はスマホを手に不思議そうに首を傾げる。
（ついてないなぁ。しょうがないから何か描いて時間潰そう、うん）
　そう思案しつつ、海は気の向くまま、今度は絵を描く用のスケッチブックを広げた。
（せっかくの機会だから）
　店内の様子を目に焼き付け、それを白い紙の上に描き出す。
　筆を走らせて、今この瞬間しかない光景を紙の上に閉じこめる。
　いつかの想い。その全てを抱き集め、今、この瞬間のために映し出すように。
　海は小さな幸せをもたらしている光景を一心に描き出していった。

（……結構、時間たったけど、まだ来ないなぁ）
　海は手を止めて、店内に目をやった。
　店内では店員が忙しなく行き来しているが、一向に海のいるテーブルに訪れる気配はない。
（ちょっと遅くない？　混んではいるけど、さすがに遅すぎな気がする）
　複雑な想いを抱く――でも、店に流れるのはいまだ活気溢れる音。
（もうちょっと待っても来なかったら聞いてみようかな）
　海は少し不安が滲んだ表情でそう思った。

　しかし、待てど暮らせど、店員が来そうな様子はない。時間だけが矢のように過ぎていく。
　そろそろ聞こうかな、と海が思ったそのタイミングでようやく料理が運ばれてきた。
「お待たせしました」
　店員は料理が並べられたのを確認し、一礼した後、慌ただしく去っていった。
（良かった、来た来た。もうお腹ペコペコだよ……あれ？）
　海はテーブルに並べられた料理を見て疑問を覚える。
（パスタとパンのセット？　注文したのにかすりもしてない……）
　テーブルに置かれている料理は注文したものと全く違うものだ。
（どうしよう。言った方がいいのかな？　でも忙しそうだし、また待つのもなぁ）
　思い悩みつつも、やがて海は気持ちを切り替えるように料理を見つめた。
（まぁ、これでいっか。これはこれで悪くないしね）
　海は溌剌とした顔で食事を楽しむ。
　新たな客が来店し、移り変わる店内の光景。それを見つめながら、海は心に宿る思いのままにパスタとパンのセットを心行くまで堪能した。

　その瞳にいくつかの小さな幸せの世界を映して。

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