小さな幸せを探して｜リアクション

小さな幸せを探して

◆笑顔の花が咲く

　梓智依子は娘の楓と地主の祖父母と一緒にサイゼリニャに出かけていた。
　今日の夕食はサイゼリニャで食事することになったからだ。
「ママ、サイゼリニャだよー！」
　楓は久しぶりにサイデリニャに来たことで大はしゃぎしている。それを智依子は微笑ましく見つめていた。
「楓、今日は何が食べたい？」
「うーんとね、えーっと……あっ！」
　ドリンクバーを発見した楓はぱあっと顔を輝かせる。
「のみたい！　オレンジー！」
　はしゃぐ愛娘の姿を眺めるのは至福だ。祖父母も表情を綻ばせている。
　早速、楓はドリンクバーのもとへ行って自分でオレンジジュースを入れたがる。だが、ボタンの位置は高く、うーんと伸ばしても背丈が届かない。
「楓はオレンジジュースね」
「うん！」
　元気よく楓が手を挙げる。
　智依子はコップを手に取ると、オレンジジュースのボタンを押した。
　しかし――

（あれ？　オレンジジュースのボタン押したのに、出てくるのはウーロン茶？）

　コップに注がれるのは何故かウーロン茶だ。
　もしかしたら機械の調子が悪いだけかもしれない。智依子はそう思った。なら仕方ない。これは自分が飲むことにしてもう一度、オレンジジュースのボタンを押す。
　だが、今度出てきたのはアイスティーだ。その後もメロンソーダが出たり、ほうじ茶が出たりとどうにもおかしい。
「楓、ごめんね。メロンソーダでいい？」
「うん！　メロンソーダ！」
　結局、楓にはメロンソーダを渡し、智依子はアイスティーを飲むことに。祖父母にはお茶類を渡した。
　智依子は気を取り直して、夕食のひとときを楽しむ。しかし、その後も妙なことが続く。
「楓、何が食べたい？」
「おこさまプレートがたべたい！」
　智依子が訊くと楓の声が陽気に弾む。
　楓はお子様プレート、智依子はミラノ風ドリア、祖父は寝子島風ビーフステーキ、祖母はしらすパスタをそれぞれ注文した。
　待ち時間も和気あいあい。サイゼリニャの話から今日食べる料理の話まで、あれこれお喋りしていればすぐに料理は運ばれてくる。
「お待たせしました」
「ママ、きたよ！」
　好奇心旺盛な楓は身を乗り出して店員がテーブルに並べた料理を見ようとする。
　だが、そこに置かれていたのはお子様プレートではなく、オムキャットライスだ。
　それ以降も注文した品は届かず、なぜか注文していない品ばかり。
　智依子の前には寝子島風リゾット、祖父の前にはお子様プレート、祖母の前にはサンマさんプレートが置かれている。
　他にもいくつか頼んでないものもテーブルに並べられていた。
「一体どうなってるの？」
　智依子は祖父母と顔を見合わせる。
　温厚な二人もさすがにこれには憮然とした様子だ。
（さすがにこれはクレームを入れるべき……）
　智依子はそう思い、店員を呼ぼうとした、その矢先――。

「あははは！　みんな、たのんだものとちがうー！！」

　楓が声を弾ませて、テーブルに彩りを添える。何故か違う注文が来たのに大はしゃぎで楽しそうだ。
　まるでそれは愛娘のそばにいるだけで世界の優しさが包み込んでいくような感覚。
　笑顔が笑顔を呼ぶように、楓の笑顔が春の温もりのように感じられた。
　そんな楓の様子を智依子は、そして祖父母が温かい眼差しで見つめる。
　気がつくと、いつの間にかクレームを入れる気が削がれていた。
　改めて、皆で仲良く食事を堪能する。
　皆でゆっくりと味わう夕食は、智依子の心の中に彩を添える。
　それは多幸感を感じさせるには十分なものだった。

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