月夜の猫耳｜リアクション

月夜の猫耳

　綾辻綾花は、猫鳴館の自室から外を眺めていました。
「月が綺麗……珪先生も見てるかな」
　月を眺めながらそんなことを思っていたら、なんだかむずむず。
「……猫耳としっぽがはえてる？」
　窓に映った猫耳と、急に現れた尻尾に驚きます。
「感触がある……本物みたい」
　触って現状を把握した綾花は、早川珪先生のことを思いました。
「珪先生は大丈夫なのかな？　もしかして先生も？」
　心配になったのも確かですが、なんだかすごく珪先生に会いたくなって。
「夜に先生の家に行くなんていつもじゃ考えられないけど……」
　今日は身体も心も軽くて、飛んでいけそうな気がしました。

　夜道を歩き出した綾花ですが。
　行き交う人々が、こちらを見て近寄ってきました。
「おや、可愛い猫だ」
　と言って綾花の猫耳に手を伸ばし触ってきます。
「えっ……？」
　驚いてドキドキしましたが、嫌だとも言えず。
　先生の家に行くまでに色んな人が当然のように猫耳に触れてくるのでした。
（みんなどうしちゃったんでしょうか？）
　ちょっと急ぎ気味で珪先生のいるアパートに向かいます。

　ピンポーン。
　チャイムを鳴らすと、先生が出てきました。
「綾辻さん？」
　驚いた様子の珪先生の姿を見て、綾花は安心しました。
「よかった、珪先生には猫耳もしっぽもないんですね」
「どうしたんだい、その姿は」
「ちょっとの間お部屋に居させてもらいたいです。外に出ると沢山の人に猫耳を触られて恥ずかしいような困るような気持ちになるので」
「ああ……どうぞ」　

　珪先生の部屋に上がった綾花は、珪先生がちらちらとこちらを見る視線に気づきました。
「……猫耳触りたいですか？」
「えっ？　いや……綾辻さんが嫌がることはしないよ」
　そう言われた綾花の猫耳が、ぴこぴこ動きます。
（珪先生に猫耳を触られたら恥ずかしいけど……でも）
　恥ずかしそうに頬を染めた綾花は言いました。
「先生になら、大丈夫です。優しくしてくださいね」
「……いいのかい」
　こくりと頷く綾花に、珪先生はおそるおそる手を伸ばしました。
　そして優しく猫耳を撫でました。
「不思議だ……感覚はあるの？」
「気持ち良くて不思議な気持ちです……」
（とてもドキドキするのは好きな人だから）
　うっとりした綾花は甘えたような表情で、
「珪先生ならしっぽも触ってもらっても大丈夫です」
　と身体をすり寄せていくのでした。
「え、それは……」
　ためらった珪先生に。
　ぴょこぴょこ。
　綾花は誘うようにしっぽの先を動かして見せました。
「それじゃ、ちょっとだけ」
　珪先生そっと綾花のしっぽに触れます。
（強く握ってほしい……気持ちよくて力が抜けちゃいそうです）

「……帰らなくていいのかい？」
　いつしか綾花は、ゴロゴロと喉を鳴らしながら先生の胸の中にいました。
「こうして居る時が一番安心します。落ち着く場所です」
　猫は夜行性だと思っていましたが。
　いつの間にか綾花は気持ちよさに負けてうとううとしているのでした。

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