月夜の猫耳｜リアクション

月夜の猫耳

　猫耳と尻尾が生えた夢宮瑠奈は、不思議な気持ちになっていました。
（ふしぎ、今日は夜が怖くない。ねこだから、きょうはよるでもうごきやすいね）
　普段は苦手なねずみも、今なら平気かもしれないと思えたり。
　
（ねこだから、とってもお月さまが明るいね）
「にゃーん」
　一声鳴けば、すっかり猫の声。
「にゃーん。にゃーん！」
　なんて、軽く歌いながら瑠奈猫は、屋根の上へと飛び出しました。
　見回せば他にも猫たちがいて、みんなたのしく屋根の上。

（おそらはふるふるふるむーん）
　満月を見上げながら、
（てがとどくかな？）
　と、瑠奈はお月さまに向けて猫パンチを繰り出しました。
　次の瞬間、世界が回りだして。
　コロン、コロコロ。
（にゃ？）
　そのままバランスを崩し転がって、あっという間に屋根の下。
「みゃーん」
　でも小さくて柔らかい猫の体は、ちっとも痛くありません。
「あら、可愛い」
　通りすがりの人が、瑠奈の猫耳に手を伸ばして触ったり撫でたり。
　ちょっと驚いた瑠奈ですが。
（ねこって、たのしいよね。楽しいから、みんなにねこみみさわられても許しちゃう）

　しばらく撫でられていた瑠奈猫ですが。
　それでもお月さまが気になって、負けずにまたまた屋根の上へぴょーんと跳び上がります。
　てしてしてしと猫パンチ。
　周りの猫たちも、真似をして猫パンチを始めました。
（そうだ、みんなに肩車されたら月まで届くかも？　できないかな？）
　ぴょん。
　と試しに隣の猫の上に飛び乗ってみた瑠奈ですが。
　ころころころん。
　それでもやっぱり、バランスを崩して絡まりあい、猫団子になって屋根の下へと転がっていくのでした。
　ちっとも痛くありません。
（ああ、たのしいね）

　にゃーん。
　どこかで猫の鳴き声が聞こえて、呼ばれている気分になりました。
（ああ、ねこの集まりがあるんだ）
　周りの猫たちも、声のするほうへ向かっていきます。
（たくさん猫がいたら、月まで肩車してもらえるかな？）
　瑠奈もそのあとについて歩き出すのでした。
　月までは無理でも、おいしいごちそうが食べられる場所とか。
　気持ちいいお昼寝の場所を聞かせてもらうのでも、悪くない、と思うのです。

「ニャー」
　やがてたどり着いた広場には、猫、猫、猫……。
　驚くほどたくさんの猫たちが集まっていました。
　知り合いがいるかな？　と思って顔を見ると、ちらほらとどこかで見たような顔の猫も。
（ののちゃんは、いないみたいだけど）
『先週の漁港の取れ高は十分な量だったにゃ。脂がのっててうまかったにゃ』
『そういや見慣れない猫がやけに多かったニャー』
『いつもの神魂の影響だニャ』　
　猫たちのおしゃべりは、寝子高の講堂で先生の話を聞いているよりも面白いのでした。

　夜明け前に寮の部屋に戻り布団に入り込んで。
　目が覚めた時には、瑠奈は人間の姿に戻っていました。
　けれど猫として過ごした楽しい時間はしっかり覚えているのでした。

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