海と夏と謎の街｜リアクション

海と夏と謎の街

　神社近く。
　ラッセルと豪は水没していた無人の街に泳ぐ透明な魚達に囲まれていた。
　背中合わせで身構える。
「気づいたか？」
「神社の建物って言うかその前にある鳥居から出て来てますね」
　とは言え、今は目の前の敵だ。
「さて、やってみるか」
　ラッセルはスマホの画面を見た。先ほど写真に収めた猛禽類ミサゴの飛び立つ瞬間の姿。ろっこんを発動させる。
「先輩、ちょっと空から様子を見てきます。隙を作るんで！」
「ラッセル！？」
　ラッセルはミサゴに姿を変えた。
（上手く行った！）
　ラッセルは囲んでいる魚達をぐるりと回って威嚇し、勢いよく空へ飛びあがった。
（これは）
　白い建物の並ぶ街。そこにぽつんと存在する赤い鳥居に違和感がある。
　そんな様子を見守りつつ、豪はポケットから取り出したエビせんべいを砕いて周りに放った。出店で購入したものだ。魚達は予想通り餌と認識したのか、ばしゃばしゃとそれらに群がる。豪はその隙間をぬって避けながら走り抜ける。
「まずは神社の建物を調査だ」
　全力疾走。
と、後ろから迫って来ていた魚に気づかなかった。
「危ないっ」
飛び出てきた蒼が跳躍をして魚の頭上からドロップキック。
「えいっ」
魚は潰れるように消えた。
「助かった！」
　瞬時に分かった。現れた彼女は自分達と同じ境遇なのだろうと。
「蒼！」
　振り返ると、ラッセルと紫が遠くの木の陰から手を振っていた。
「その鳥居を壊して」
「その鳥居だけ真っ赤なんだ。もしかすると、原因はそれかもしれないです」
　それぞれ叫ぶ。
「分かった！」
「二人でやろ。左行くよ」
「俺は右だな！」
頷いて、同時に、
「せーの！」
鳥居の柱を思いっきりキック。
それは手ごたえなく、しかしゆっくりと崩れ始めた。ブラックホールのように水を吸い込んで行き、魚達は何故か自ら鳥居の中へと入って行く。
　復活した遠くの喧騒を聞きながら立ち尽くす四人。
「……あの鳥居が原因だったってこと？」
　蒼が紫を見る。
「魚が戻って行ったよな？」
「なんていうか、一つだけ赤い鳥居だったんで、この街の物じゃない感じがしたんですよね」
　ラッセルが空から見た情景を思い出しながら語る。
「多分だけど」
　紫は言葉を切って、
「あの鳥居が別の世界と繋がっていたのかもしれないわ。鳥居が立ったせいで魚達とこの水がこの世界に流れ込んで来ていたってこと」
「だから戻って行ったんだ？」
魚達はこの世界に無理矢理連れて来られていたのだろう。
「変な鳥居が現れたせいでこうなってたってことか。ていうか」
　豪が神社だったものを見上げる。
「よく見れば寺っぽいな」
　この場所は本当はお寺であり、謎の鳥居のせいで神社に見えていたということらしい。
　四人は顔を見合わせ、息を吐いた。
　そして、寺の横を見ると、やって来た路地が現れていた。落ち葉がひらひらと一枚。
　季節も動き出すのかもしれない。

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