海と夏と謎の街｜リアクション

海と夏と謎の街

　真っ青な空には入道雲、白みを帯びた石造りの建物がずらりと並ぶ街。
桜井ラッセルは潮風に吹かれながら、水の中に潜った時のようなひんやりとした感覚を味わっていた。
「ぼがっ！？」
　鼻と口を塞がれたかのような気がして、思いっきり息を吐き出してしまったが、
「およっ…！　げてよかったぁ！」
　水の中でありながら、すぐにすっと息が出来た。どうやら特殊な世界らしい。
「えーと、こういう時は平泳ぎか？」
　ふわふわ浮かびながら、両手を合わせ、力いっぱい水を掻く。
「おお、ちゃんと進む」
　息が出来る分、余裕があり、泳いでの移動が上手くできている。
「よしこれなら自由に。おう！？」
　ほっとしたのもつかの間、下へ引っ張られるような感覚に血の気が引く。
「うああああっ」
　街へ、落ちて行く。

　龍目豪は夏特有の陽射しに目を細めた。
「不思議な街だな」
水着に近い薄着な住人たちが賑やかに行き交っている。先ほどまでの静寂はいつの間にか消えていた。
永遠に夏らしいこの場所に魅力は感じるが、やはり不気味だ。
と、その時だった。
「龍目先輩！？」
　振り返ると、ラッセルが目を丸くしていた。
「ラッセルもここにいたのか」
「いつの間にか迷い込んでてて」
「ああ、俺もなんだ。ここから出るには」
「水没する街の秘密を解かないといけない、ですよね？　俺も協力するんで」
「ああ、二人で頑張るか」
　水が引き、住人達が現れた。今のうちに聞き込みだ。

　仙藤蒼と仙藤紫はぽかんとした。階段の途中に立っていて、サンダルの足元に波がちゃぷちゃぷとかかる。砂浜ではない波打ち際に少し不安になる。街の中へ続く階段は水没していた。
「ここは……あ！？」
　蒼が自分の姿を見て目を瞬かせた。
　私的水着ではなく『NEKOJIMA』ロゴ入りの水泳部水着だった。
「どういうこと？」
　紫も戸惑っているようだ。
「異世界に飛ばされたってこと？」
「それ以外なさそうね」
　蒼は少し考えて、
「お姉ちゃん、私、ここへ来る前に誰かに」
「やっぱり蒼も？」
　お互い確認すると、その世界について説明してくれた人がいた気がしたのだ。
「とりあえず、街に降りてみましょう」
「うん、戻るにはそれしかないだろうしね」
「なんか少し楽しそうね」
「だってずっと真夏で海の世界なんてわくわくしない？」
「まあ」
　水没した階段を降りて行くと、水のひんやりとした感覚と、緩い水流のようなものを感じた。水の中に広がる街へ。身を沈める。
「わっぷ。ひや～。冷た～」
「あんな深いところまで行けるのかしら」
　少し不安そうな紫を横目に蒼は水の中に潜ってみた。
「わっ、息が出来るよ、お姉ちゃん」
　水であって水ではないのかも知れない。海特有の潮風の匂いはするのに、塩辛さは感じない、海であって海ではないのだろう。
　緩い水流を利用して、街へ降り立つと、水中都市に人の気配はなかった。
「廃墟……？」
「それにしては綺麗な建物ね。藻なんかも生えていないし」
「水の中に沈んだばっかりみたいな？」
　と、蒼は、はっとした。紫の後ろに何かが迫っていた。透明な影とでもいうのだろうか。ヒレがある魚のような形のそれが迫ってくる。
「お姉ちゃんっ」
　蒼は紫の手を引っ張ると同時に透明な魚に向かって回し蹴りを繰り出した。
「はっ！」
　手ごたえありだ。水流が味方し、少し威力が増した気がする。魚は民家の壁に激突し、動かなくなった。
　しかし、左右から透明な魚の群れが。
「蒼、このままだと」
「うん。囲まれるね」
　蒼と紫は大通りから細い路地へと入った。
「水が引くって言ってたっけ？」
「ええ。一時間ごとに、ね」
　走りながら隠れるところを探すことにした。

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