秋空とサイクリング｜リアクション

秋空とサイクリング

◆３年ぶり

　日曜日。
　月原想花は猫鳴館の自室で過ごしていた。秋も深まり冬が近づくにつれて猫鳴館は心なしか肌寒く感じられた。この部屋には冷暖房が無い。いちおう夏は扇風機、冬はこたつがあるにはあるが、アンペアの関係で満足に性能を発揮できない。

「……図書館に行こうかな」

　ここにずっといても気分がふさがる一方。
　それならばと荷物を軽くまとめて部屋を出た。太陽は出ているが、秋の終わりを感じる風が吹いている。

（もう１枚羽織ってきてもよかったかも）

　気づいた頃には冬になっているかもしれない。
　想花が空に思いを馳せていたら、不意に声を掛けられた。どうやらサイクルショップの店員のようだ。『秋を楽しもう！　サイクリングロード！』というイベント中であることを熱心に語っている。

「ぼくは図書館に行くだけなので……」

　なんとかその場を乗り切ろうとしたが、はっきり断ることができずイベントに参加することになった。イベントでは自転車をレンタルできるらしく、想花は緑色のクロスバイクを選んだ。
　参加した企画は『駅スタンプラリー』。これならタイムアタックのように競わなくてもいいので、気楽にのんびりとできる。自転車にまたがってみて、ハタと気づいた。

（ぼく、自転車に乗るの何年ぶりだろう……？）

　記憶を辿ってみると最後に乗ったのは中学１年生の時。そのときから３年は経っている。思わぬ事実に想花は戦慄した。

（……ちゃんと、乗れるよね？）

　想花は恐る恐るペダルに足を掛けて踏み込む。自転車は問題なく発進し、少しずつ加速していく。

（よかった。体が覚えていた）

　ほっと安堵のため息をもらす。
　想花はまず寝子島駅に向かい、最初のスタンプをもらった。ここからシーサイドタウン、星ヶ丘と線路をなぞるようにいけば順調にスタンプを集められるだろう。その途中で久保田美和先生に遭遇した。

「想花ちゃん、こんにちは！」
「こんにちは」

　美和先生はしっかり運動できる格好をしていた。想花は偶然イベントを知ったが、先生は運動不足を解消しようと参加したらしい。色々話すうちに一緒に巡ることになった。

　のんびり走りながら駅以外のところにも行った。
　買い食いするか真剣に悩んだり、途中でなぜか不自然にペダルが重くなるトラブルなどはあったが、なんとかすべてのスタンプをコンプリートした。
　美和先生とも別れて、自転車も返却した。

「疲れた……」

　それは率直な感想だった。
　けれど、晩秋の寝子島は十分に味わうことができた。

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