秋空とサイクリング｜リアクション

秋空とサイクリング

◆爆発30秒前

　響蒼留人は『秋を楽しもう！　サイクリングロード！』というイベントをサイクルショップ『CatBiCycle』の店頭で知り、その店でクロスバイクをレンタルした。
　しかしペダルを踏み込んだ途端、信じられないほど加速した。それが神魂の影響だと気づいたところですぐには止まれなかった。どうにか減速してようやく停止すると、蒼留人は大きく深呼吸をした。

「とんでもないスタートになったな……」

　気を取り直して、寝子島駅でスタンプラリーのカードをもらい、１つ目のスタンプを押す。駅にもイベントのチラシが貼ってあり、改めてゆっくり読み進める。

「なるほど、ちょっとした記念品もあるんだな。あれ？　これ、スタンプラリーと猫ボール両方参加できるんじゃないか？」

　そう思った蒼留人はイベント概要を確認する。やはり同時参加は禁止されていない。

「だったらこの辺の猫ボールを探してからシーサイドタウンに行くか」

　今後のプランがはっきりしたし、休憩も十分とれた。蒼留人は意気込みを抱えて再び自転車に跨った。

「まずは参道商店街かな」

　自転車は軽やかに走り、猫ボールも順調に見つかった。寝子島駅に戻ると猫ボール探しのほうのスタンプをもらう。それぞれのスタンプカードを眺めると走った実感がわいてくる。

（これが全部埋まったら、達成感がすごそうだ）

　次の目的地はシーサイドタウン。自転車に乗って寝子島街道を走る。そのときだった。

『この自転車は停止すると、３０秒後に爆発します』
「……は？」

　急に聞こえてきた怪しい声。どうやら乗っている自転車から聞こえるようだ。

「どうすんだよこれ……」

　神魂の影響ならいずれ収まるだろう。
　しかし街中でまわりに迷惑をかけるわけにもいかない。しかし信号やチェックポイントでは止まるしかない。かといってずっと走り続けるのも厳しい。
　
「のんびりできなくなっちまったな」

　小さなため息は加速する自転車で流れていった。まずはシーサイドタウン駅でスタンプラリーのほうを押してもらう。
　困るのは猫ボール探しだ。ボールを拾おうと自転車から降りたら、すぐに戻らないといけない。それに自転車は停止すると数字をカウントし始めるので心臓に悪い。もし降りてから車や人にひっかかったら終わりだ。

「めっちゃ気を遣うな、これ」

　それでもシーサイドタウンにある猫ボールを全て見つけた。ここのスタンプも２種類手に入れると、最後の星ヶ丘へ向かう。星ヶ丘でもどうにかスタンプを確保してイベントを完走した。

　だが、まだやることが残っている。蒼留人は必死に自転車をこいで人気のない場所を目指し、ようやく見つけた空き地に自転車を置いてすぐに離れた。
　３０秒後。自転車から花火のような閃光と音が発せられた。それに気づいた人たちがスマホを取り出してはしゃいでいる。見た目は派手だが自転車は無事のようだ。

「これって人とのふれあいを楽しめるイベントじゃないのかよ……」

　花火が完全に収まってから蒼留人は自転車を回収した。

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