waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371｜リアクション

waに染まる猪口齢糖と伝統技術の饗宴 in サロネコ1371

＊大人の時間の味わい方

（少し、緊張しますね）
　綾辻綾花はこの日、傍らで微笑む早川珪と共にレストランへやってきた。
　彼女はメイクをし、青いドレスを纏って珪にエスコートされている。「彼の隣に並んで似合う女性に見えればいいな」と思いながら歩く姿は初々しく、珪の眼差しも優しい。
「先生、今回はお誘いありがとうございます」
「こういう場所での食事も、綾辻さんにはいい経験になると思ってね。それに、激励も兼ねて、かな？」
　ドキドキしながら綾花が礼を述べれば、珪は少し照れたように笑う。
（照れている珪先生も素敵です！）
　そういえば、こんな顔は見たことがなかったかもしれない。綾花は少し胸の奥が擽ったいような気持になった。

　二人が案内された席は、夜景がよく見える場所だった。宝石のようにキラキラ輝く光景に思わず息をのむ。
　メニューを開こうとしたとき、近くの席に体育教師の相原まゆの姿を見かけた。一緒にいるのは卒業生だろうか？　楽しそうにしている姿に微笑み、綾花はメニューに目を戻す。
　その中で、秋の和洋折衷コースを選び、珪には食前酒としてワインが、綾花にはグレープジュースが運ばれる。
　まさに大人のための空間、という落ち着いた場所。綾花は少し緊張していたが、目の前で微笑む珪のお陰で、それもだいぶ薄れてくる。
「では、素敵な夜に」
「素敵な夜に」
　乾杯、とグラスを軽く当て、一口。程よい酸味と濃厚なブドウの風味に目を丸くしていると、珪が微笑んだ。
「とても美味しいね。そっちのジュースもこのワインと同じ工房で作られているものだそうだよ」
「はい。気に入りました」
　綾花も自然と笑顔で頷けば、早速オードブルが運ばれてきたのだった。

　歓談しながら食事がある程度進み、ふと綾花は珪を見つめる。
　やはり、こういう場所も似合う。そして、仕草の一つ一つが美しくて、つい見とれてしまう。
（お酒を飲む珪先生も、かっこいいですね……）
　ワイングラスを傾ける珪を見つめていた綾花だったが、ふと目が合って。ほんのりと耳が赤くなる音を聞きながら、彼女は口を開いた。
「綺麗ですね。夜景も、ライトアップも……、珪先生も」
「ふふっ、ありがとう」
　珪は静かに礼を述べるも、綾花は恥ずかしく外を見ていたから、彼が僅かに頬を赤くしたことに気付かない。
　ようやく向き直った綾花は、水を一口飲み、改めて珪に礼を述べた。
「受験勉強は確かに大変ですけど、こうして先生と一緒の時間が過ごせて……本当に嬉しい事です。おかげで、明日からまた勉強を頑張れそうです」
「誘った甲斐があったよ。綾辻さんは普段から頑張っているから、根詰めすぎていないか気になっていたんだ。だから、いい息抜きになれば……ってね？」
　彼の言葉に、綾花は幸せそうに微笑んで頷いた。

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