はちゃめちゃ寝子中日記♪｜リアクション

はちゃめちゃ寝子中日記♪

　佐藤瀬莉はクラスメートと連れ立ってゲートを抜けた。
　隣の席の女子が声を掛けてきた。
「ねえ、佐藤さんはどこから見るつもり？」
「あたしは久しぶりだから、いろいろと見たいんだよね。一年前くらいなんだけど、ＮＡＳＡの月探査の特別展示があって、あの時は月の石とかあったんだよ」
「そうなんだ。今も月の石はあるのかな」
「ないんじゃないかな。そのかわりじゃないけど、小惑星探査機の『おおたか』の模型があるんだって」
　瀬莉はにっこり笑って言った。
「大きいのかな」
「模型だけど大きさは同じみたいだからワクワクするよね」
「早く行ってみようよ」
「そうだね」
　笑みを交わした二人は手を繋いで走り出した。

　少し迷ったが二人は目的の『おおたか』を目にした。
　瀬莉は神妙な顔で模型の周囲を回った。
「意外に小さいんだね」
「わたしも、もっと大きいと思ってたからびっくりした」
「でも、こんな小さいのに小惑星からサンプルの石や砂を持ち帰ったんだよね。すごいし、なんか想像すると胸が熱くなるよ」
　瀬莉は白いブラウスの胸に手を当てた。泣きそうな表情を笑顔に変えて、すごいよね、と少し震える声で言った。
「なんか、佐藤さんの言葉でわたしも泣きそう」
「感動しちゃったね」
　二人は同時に頷く。瀬莉は、そうだ、と口にして黒いサスペンダースカートのポケットからスマートフォンを取り出した。『おおたか』を背景にして記念の写真を撮った。
「佐藤さん、今度は宇宙服を着てみようよ」
「いいね。あたしは装備するものも気になるんだよね」
　涙とは無縁の笑顔で二人は次の展示室へ向かう。
　他の生徒の流れに導かれ、難なく見つけることができた。中学生の男子達が宇宙服に群がり、着た状態でポーズを決める。
「宇宙の悪を断じて許さない！」
　勇ましい台詞を吐いて片足立ちとなった。
「いるよね～。あんなことする男子って」
「それより、あれって時計だよね。ちょっと見てくる」
　瀬莉は宇宙服を無視して台上に並べられた腕時計に顔を寄せる。
「クロノグラフなんだね」
「触っても大丈夫ですよ」
　係員の若々しい女性がにこやかな顔で言った。
「本当に？」
「どうぞ」
「結構、重いんだね」
　瀬莉は掌に載せて軽く上下させた。外枠のタキメーターの数字は興味深く見詰めた。
「こんな時計をあたしも作ってみたいな」
「佐藤さんならできるよ」
　隣にきた女子は疑いのない目を向ける。瀬莉は、そうかな、と言って照れたように笑った。
　男子達の流れが途切れたところで二人は宇宙服を試着した。記念の写真を貰うと軽い足取りで常設の展示場を見て回った。
　その過程で飲食のできるところを見つけた。客の数は疎らであった。二人は話し合って少し早い昼食を取ることにした。
　瀬莉の前に宇宙カレーが運ばれてきた。スプーンで星型のニンジンを掬って食べる。合間に火星ソーダを飲んだ。最後のデザートは火星アイス。食べ終わると、どう？　と真向いの女子に味を聞かれた。
「まあ、こんなものかな」
「わたしも、そんな感じ」
　二人は苦笑いで食堂を後にした。軽い運動を兼ねて無重力体験に臨む。
「これ、楽しいかも」
　チューブの中で瀬莉は浮いていた。下から吹き上げる風を全身で受ける。手や脚の使い方によって方向転換することもできた。
　意外と疲労が溜まるのか。二人は体験後、微妙な身体の重さを感じた。
「佐藤さん、あとはどうする？」
「プラネタリウムに行きたいんだけど、寝ちゃうかも」
「わたしも」
　二人は気恥ずかしそうな笑みで歩いていった。

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