シーサイド★ハンバーガーグランプリ｜リアクション

シーサイド★ハンバーガーグランプリ

●偶然の出会い

　平日。
　三折部朝衣は仕事帰りの夕方に『シーサイド★ハンバーガーグランプリ』の会場を訪れた。会場である寝子ヶ浜海浜公園には特設スペースが設置され、フードトラックが何台も並んでいる。注目度の高いイベントなのだろうか、多くの人々でかなり賑わっている。

「お腹が空いた……」

　彼女の今の率直な感想はそれだった。町長司書として今日も一日中働きづめだったのでとにかくお腹が空いて空いて仕方がない。しかもあたりには良い匂いが漂い、おまけにどのハンバーガーも美味しそうなので困ってしまう。

「でもあんまり食べすぎるのも……」

　食べたい気持ちと食べ過ぎを心配する気持ち。とても悩ましい板挟みに苛まれる。しかし立ち止まっていては、いつまで経ってもハンバーガーに辿り着けない。

「ええい、適当に飛び込んだところでハンバーガーを買っちゃえ」

　空腹が限界だったのもあって、朝衣は近くに停まっていたフードトラックに駆け寄った。そこで働く人を見て思わず立ち止まる。

「遥人？」

　偶然にも婚約者である住沢遥人とバッタリ出くわした。なんだか間抜けな気がするが、そういえば彼の勤める洋食店もグランプリに出店すると以前聞いていた。とはいえ、まさか最初に飛び込んだ先がそうだとは思いもしなかった。
　そんな遥人がこの日のために用意した自信作は『洋食屋のタンシチューバーガー』。彼の店で出しているものをアレンジしたのだろう。厚く切られたタンを香ばしく焼き上げ、濃厚なデミグラスソースでまとめあげている。

「これ、おいくら？」

　結構高いんじゃないかと思ったら、かなりのお手頃価格で驚いた。店舗で出すのではなくイベントだからというのもあるし、きっと色々な工夫をしているのだろう。

「それ、１つもらうわ」
「ありがとう。その様子だと仕事帰り？」
「その通り」

　ここで立ち話をしていては他の人たちにも遥人にも迷惑が掛かる。会話をほどほどで切り上げると、彼女は購入したバーガーを食べてみる。

「うん、おいしい」

　挽肉で作るパティとはまた違った食感と味わいがあった。このイベントはグランプリなので気に入ったバーガーに投票することができる。朝衣は他にもいくつが食べたが、投票は当然このバーガーに入れた。

このページにイラストを設定する