仲良くなりたい、その９｜リアクション

仲良くなりたい、その９

〇なかったことなんかじゃないから

　稲積柚春は、特に目的もなく休日の街を歩いていた。
「……」
　柚春の頭をいっぱいにしているのは、ウォルター・Bとのキスだった。
　アクシデントではあったけど、間違いなく唇と唇のキスで。
『秘密ね』
　そう言ったウォルターの顔を思い浮かべるのは、何度目だろうか。
（なかったことにしないでくれて、嬉しい……）

「稲積」
「え」
　その声に振り向いた柚春は、驚きに目を見開いた。
「またそんな無防備に～。困るな」
「ウォルター先生！」
　妄想ではなく、現実のウォルターの顔がそこにあった。
「偶然だね」
「あ、あの……」
　つい普通に呼んでしまって、そうじゃない、と言い直そうとする。
（今は秘密の偶然も、いつか必然って言いたくなるかな？）
　そんなことを思いながら。

「そうだね、ワット……」
　その声は、まだ小さくて。
（聞こえなかったかな？）
　けれど、先生の視線は柚春を捉えていた。

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