反転、膨張。変わって染まって？｜リアクション

反転、膨張。変わって染まって？

　そして、時子は……。
（ここならば……）
　崩れたアスファルトの所為で足場がやや不安定な場所を見つけた。そして手には鉄パイプ。これで足を狙うようだ。しかもお誂え向きにほどよく狭く、上では烏たちが見守っている。
　退路を断つようにじりじりと幸次が迫る。それに追い立てられるように、他の者達も……。幸次は巧へアタックするタイミングを狙っていただけなのだが……。
　鴻たちの拳や蹴りを躱し、受け流していた巧は、突如投げられた鉄パイプに足を取られる。隙に飛び込むは時子。その一撃をどうにか受け流すと、素早く立ち上がろうとする。けれども、砂利状になったアスファルトに足を取られ、バランスを崩したようだ。
「今だな」
　修は巧のシャツを目視、ろっこんの範囲内だと解った上で『分解』を使った。音もなくばらけるシャツ。程よく鍛えられた身体が現れたものの、まだ吸魂ミルちゃんは見つからない。
　僅かに反応が遅れた巧を神無が襲う。意識を狩るほどの一撃がそこに決まり、巧は膝を付いた。鴻と修が咄嗟に巧に組み付き、更に幸次が抑える。
　そこで、漸く背中についている小さな丸っぽい物を見つけることが出来た。
「これが……吸魂ミルちゃん？」
「すぐ潰しましょう」
　時子と神無は頷き合い、すぐさまそれを思いっきり潰す。その瞬間、荒ぶっていた心がすぅ、と落ち着いていくのを感じるのだった。

「少しは落ち着いたか？」
「先生こそ……」
　タイマンで戦っていた熊吉と小次郎もまた、嵐のような心持が凪いでいくのを感じていた。熊吉が「大丈夫か？」と小次郎に問えば、彼女は「あぁ……」と照れくさそうにわらった。
「あたしを止めてくれてありがとうな、熊センセー」
　小次郎の言葉に、熊吉は「何もできていない」と苦笑する。
　話によると、熊吉は何故巧を庇って暴れていたのかが分からないらしい。たまたま偶然外で会ったから子供たちの事を話していただけなのだという。彼は『ひと』であるし、吸魂ミルちゃんについて話した所で信じて貰えるか未知数である。
（こんど、熊センセーに何か恩返しが出来たらいいな……）
　そう考えながらにっこり笑う小次郎の姿を見、熊吉は表情を曇らせる。
「それよりも、どこか痛い所は無いか？　手当が必要じゃないか」
「いや、大丈夫だから」
　小次郎がそう言って遠慮すると、熊吉は「そうか……」と心配そうに頷いてから、あたりを見渡し同じように負傷した生徒や町の人の様子を見に行くつもりだろう。彼女に背を向けた。
「あぁ、そうそう！」
　ふと、振り返らぬまま熊吉が言う。
「心にモヤモヤが溜まったら、話に来い。待ってるぞ」
「……！」
　小次郎は、なんとなく凄いな、と思いながらその背中を見つめ続けた。

　一方、巧は暫くの間左腕を押さえ蹲っていた。そこに古傷があるのだろう、と鴻は考えとりあえず冷やす物を……と、飲み物を買ってくる。そして、巧の腕に押し当てた。
「すまん」
　短く言われた礼に、鴻は黙って首を振る。
　一息ついたところで、一同は戦いの現場となった街角を見る。車は拉（ひしゃ）げ、アスファルトにはひびが入り、何本もの道路標識が抜かれ、散らばっている。
「……これ、全部儂がやったのか……？」
　巧が辺りを見渡し、表情を強張らせる。その場にいた者達は、顔を見合わせるが最初に動いたのは神無だった。
「先生は……吸魂ミルちゃんに吸い付かれました。その影響で幾人かの人も……」
　彼女の説明を補足するように修たちが情報を出すと、いつになく神妙な表情で巧はため息を吐いた。
「知らなかったこととは言え、えらい迷惑かけてしもうたな……。手当ぐらいはちぃとできるさかい、皆集まってや」
　巧の何とも言えない表情に、その場にいた者たちは皆複雑な感情を抱いた。
「よくわからないけれど、とにかく、みんな大けがはしていないかと」
　尚輝が人々の怪我の具合を見、ようやくほっ、と安堵した表情を浮かべながら告げる。時子は尚輝の表情が緩んだのを見、「無事でよかった、です……」と尚輝に駆け寄った。

巧についた吸魂ミルちゃん、除去完了！！

「そういえば……」
　巧は、ふと空を見上げ複雑な表情を浮かべ呟いた。
「なんか、女性から物凄く心外な事を言われた気ぃするんだが……気のせいやろか」
　心当たりがある絵梨菜は、ちょっと頬が引きつった。
「気のせいだと、おもいますわ」
　言ってしまってから、悪役令嬢キャラがちょっと抜けていない事に気付き、絵梨菜は内心頭を抱えた。

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反転、膨張。変わって染まって？

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