寝子島あやかし譚　蟹坊主｜リアクション

寝子島あやかし譚　蟹坊主

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　正面から迫る子ガニの目を潰した蒼留人の脇腹を、左からまわりこんだ子ガニのハサミが打ち据える。
「痛って！」
　竹刀でハサミを打ち払い、距離を取ろうとする蒼留人。
　しかし脇腹の痛みに動きが止まり、その隙を突いて先程の子ガニが更に距離を詰めてくる。
　繰り出されたハサミを、その下へ竹刀ををくぐらせるような格好で受け止めた。そのままかち上げると同時、甲羅に蹴りを食らわせる。
　割れはしなくとも体勢を崩す子ガニ。それを逃すことなく、蒼留人はその目に向けて竹刀の突きを叩き込んだ。
　泡を噴いて動かなくなるの子ガニをよそに、周囲に他の子ガニの姿は見当たらないことを確かめる。
「今のうちに！」
　泡の拘束が解けた葉月と、傍らの滴に呼びかける。

「ええ、ありがとう。ほら、いくわよ」
「あ、ありがと！」
　滴を連れて、葉月はその場を後にする。自分たちが残っていたところで、何かの拍子に足手まといになる可能性のほうが高い。
　蟹坊主に気づかれてしまう前に、素直に逃げることにした。

　二人が逃げるのを確認すると、蒼留人は手蹴と蟹坊主の方へと急ぐ。
「そいつらの弱点は目だ！　目を狙え！」
　呼びかける声に反応した子ガニが、蒼留人へ素早く迫る。
　横一文字に薙ぐハサミを、走る勢いのままに跳んで回避。着地した足元にあった石を拾い上げると、そのまま投げつけて目に直撃させる。

「なるほど。ならば」
　手蹴は蠢く触手を一本の太い触手へとまとめ、先端をスコップのように変化させた。地面を抉るように攻撃を放ち、土埃を巻き上げて蟹坊主の目を塞ぐ。
　直後、再度身体を変成。触手の先端を蛇状に変化させ、鋭い噛みつきを放つ。
　しかし蟹坊主はすかさず反応。ハサミが蛇の頭を捕らえようと伸びる。
「させるか！」
　踏み込んだ蒼留人が竹刀を突きこんだ。いわゆるボンボリにあたる箇所を打突が直撃。
　ハサミが押しのけられた隙に、手蹴の蛇がバケガニの右目を捕らえる。
　グシャリと噛み潰される右目。蟹坊主の巨体が痙攣し、その腹が今一度泡を吹く。
「そっちもなしだ！」
　蒼留人が竹刀をバケガニの腹へと一撃。
　蟹坊主の巨体がひときわ大きく跳ねたかと思うと、泡がかき消えていく。生み出そうとした子ガニは生まれず、蟹坊主は無防備なままよろめいた。
　度は蛸状に変化した手蹴の身体が、その巨体を絡め取る。
　触手をとまとわりつかせると、締め上げながら根本から曲げていく。ミシミシと音を立てることしばし、蟹坊主の脚はバキリと音を立ててもぎ取られた。
　もぎ取った歩脚の中に触手を侵入させ、手蹴りカニフォークでほじくりだすようにして中身を捕食しようとしはじめる。
　それからふと気付いたように蒼留人の方へと視線を向けて、
「美味しいですよ」
「へっ？　あ、お、おう」
　あっけにとられてその様子を眺めていた蒼留人の声には、明らかに戸惑いの色がにじんでいた。しかし手蹴にはその辺りの心理というのはまだわからない。
「私一人で食べるのも悪いですし、一緒に食べませんか？　子ガニも居ますし」

　どうぞともう一本へし折られた足を差し出され、蒼留人は困ったように半笑い。
「確かにカニは美味いが、このデカさじゃな」
　人間が食べるには、蟹坊主の足はでかすぎる。それに一応は人間の姿をしていたので、そういう意味でも気が引ける。
「俺は……うん、遠慮しとくよ」

「そうですか、では私は遠慮なく」
　進化を求める手蹴にとって、さらなる進化を促す味覚による刺激を逃す手はない。蟹おいしいし。
　しかし残念なことに、致命傷を受けた蟹坊主の身体は捕食する前に霊界へと還っていってしまうのだった。

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