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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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拝啓、お父さんへ
森篠 琳子は家の玄関で後ろから着いてくる妹の森篠 奏子へ振り返った。
「じゃあ、行きましょう」
「うん」
母親と三人で、家を出る。
今日は父の日。八年前に急死した父のお墓参りの日である。
少し気になるのは奏子の様子だ。墓参りに行くと決まってから何やらぼーっとしている。
「奏子？」
「今日は暑くないなって思ってさ」
奏子にとって、父との最後の思い出は、夏の暑さと共にあるのだろう。
「ええ、そうね」
お墓へ向かう途中、母が小さな和菓子屋を見つけた。丁度、イチゴ大福が店頭に並んだところで、
「父さんが好きだったんだっけ」
「お供え物に買って行きましょ」
「あ、お姉ちゃん」
「どうしたの？」
「ほら、白いイチゴのイチゴ大福だって。お父さんにどうかな？」
琳子は少し考えて、
「じゃあ、普通のと二つ買って行きましょうか」
奏子が選んだ。そう伝えたら、喜んでくれるかもしれない。
父が亡くなった時、奏子は七歳だった。人の死というものが分かる年頃だったのか、今は分からないが、父がもう戻ってこないことは理解したと思う。
父が亡くなったのは琳子が高校一年生のころだった。直後の慌ただしい雰囲気、落ち着いた頃にじわじわと心を浸食してきた寂しい気持ち。
そして、これからのこと。
「ありがとうございましたー」
紅白イチゴ大福を受け取って、店を出る。
（父さん、今更だけど、聞きたいことがあるの）
初めて、社会人としての自分を父に報告するのだ。
和菓子屋を出てから、姉がぼんやりしていることに気づいた。これから向かうのは父親のお墓だ。色々と考えてしまうのは仕方ないだろう。
三年前のあの暑い日、七年間一緒に過ごした父親を亡くした。本当に突然だった。人の死というものが上手く理解できていなかったからか、悲しみ方もよくわからなかった。それに、姉と母が気丈に振舞っていた。自分だけが泣くわけにはいかない。そんな気持ちが強かったと思う。
次に思い出したのは母と姉が泣きだした瞬間のことだ。
なんてことない日常。むしろ、三人での日々に慣れてきた頃、唐突に二人の涙を見た。泣きじゃくる二人につられて、奏子自身もぐちゃぐちゃになりながら泣いた。
奏子は小さく、深呼吸した。
（夢だったのかなー）
あれ以来、小さな子供のように泣く二人の姿を見たことはない。あの日から遠ざかれば遠ざかるほど、現実感のない話だ。
途中の店でお茶のペットボトルを買い、墓地に到着。
「お姉ちゃん、掃除？ 手伝うよ」
「ええ」
母が水を汲みに行ったので、琳子と奏子は箒を借りて掃き掃除をすることにした。
葉っぱや細かい枝などを端っこに集める。
「お姉ちゃん、働き始めてから初めてだよね？ ここへ来るの」
「ええ。そうね」
琳子の少し沈んだ声に、奏子は無言で地面を黙々と掃き続ける。
新社会人になった大好きな姉。言葉の端々に、大学への進学をしたかったという想いが読み取れた。父の借金がなければ、きっとその望みどおりになったのだろう。
（でもさ、あの人と出会ったのは）
奏子は気落ちした様子の琳子へ視線を向けた。
妹と周辺の掃除を終えると、水を汲んだ母が戻ってきたので、森篠家の墓に花を添えて水をかけ、持って来た線香をあげた。紅白イチゴ大福を供え、手を合わせていると、すぐそばでスマホのシャッター音がした気がした。
それぞれ、近況を報告する。
「お父さん、私、今年から働き始めたの。立派な社会人になれるように頑張るわ」
その先は言葉に出来なかった。
友人の借金の保証人になり、遺産や保険金はそのために消えてしまった。だから、大学進学をあきらめた。困っている人を見捨てられない父の性格は知っているが、家族のことはどう思っていたのだろう。もう少し、家族のことを考えてほしかった。そう口にしそうになったが、やめておいた。今の立場も悪くないと思っているから。
「頑張るわね」
琳子はもう一度、そう言った。
近況報告、奏子の番が回って来た。勉強のこと、楽しかったこと、嫌だったこと、そして、
「後ね、父さん。なんと、父さんの大事な娘、琳子お姉ちゃんに彼氏ができたよー！」
「あ……ちょっ」
「初彼だって、初彼！ 時々、見たことない表情になるから、お姉ちゃんの可愛さがましたんだー！ それからそれから」
姉の近況報告の方が長くなってしまい、琳子は慌てながら奏子を止めに入るのだった。
「じゃあ、行きましょう」
「うん」
母親と三人で、家を出る。
今日は父の日。八年前に急死した父のお墓参りの日である。
少し気になるのは奏子の様子だ。墓参りに行くと決まってから何やらぼーっとしている。
「奏子？」
「今日は暑くないなって思ってさ」
奏子にとって、父との最後の思い出は、夏の暑さと共にあるのだろう。
「ええ、そうね」
お墓へ向かう途中、母が小さな和菓子屋を見つけた。丁度、イチゴ大福が店頭に並んだところで、
「父さんが好きだったんだっけ」
「お供え物に買って行きましょ」
「あ、お姉ちゃん」
「どうしたの？」
「ほら、白いイチゴのイチゴ大福だって。お父さんにどうかな？」
琳子は少し考えて、
「じゃあ、普通のと二つ買って行きましょうか」
奏子が選んだ。そう伝えたら、喜んでくれるかもしれない。
父が亡くなった時、奏子は七歳だった。人の死というものが分かる年頃だったのか、今は分からないが、父がもう戻ってこないことは理解したと思う。
父が亡くなったのは琳子が高校一年生のころだった。直後の慌ただしい雰囲気、落ち着いた頃にじわじわと心を浸食してきた寂しい気持ち。
そして、これからのこと。
「ありがとうございましたー」
紅白イチゴ大福を受け取って、店を出る。
（父さん、今更だけど、聞きたいことがあるの）
初めて、社会人としての自分を父に報告するのだ。
和菓子屋を出てから、姉がぼんやりしていることに気づいた。これから向かうのは父親のお墓だ。色々と考えてしまうのは仕方ないだろう。
三年前のあの暑い日、七年間一緒に過ごした父親を亡くした。本当に突然だった。人の死というものが上手く理解できていなかったからか、悲しみ方もよくわからなかった。それに、姉と母が気丈に振舞っていた。自分だけが泣くわけにはいかない。そんな気持ちが強かったと思う。
次に思い出したのは母と姉が泣きだした瞬間のことだ。
なんてことない日常。むしろ、三人での日々に慣れてきた頃、唐突に二人の涙を見た。泣きじゃくる二人につられて、奏子自身もぐちゃぐちゃになりながら泣いた。
奏子は小さく、深呼吸した。
（夢だったのかなー）
あれ以来、小さな子供のように泣く二人の姿を見たことはない。あの日から遠ざかれば遠ざかるほど、現実感のない話だ。
途中の店でお茶のペットボトルを買い、墓地に到着。
「お姉ちゃん、掃除？ 手伝うよ」
「ええ」
母が水を汲みに行ったので、琳子と奏子は箒を借りて掃き掃除をすることにした。
葉っぱや細かい枝などを端っこに集める。
「お姉ちゃん、働き始めてから初めてだよね？ ここへ来るの」
「ええ。そうね」
琳子の少し沈んだ声に、奏子は無言で地面を黙々と掃き続ける。
新社会人になった大好きな姉。言葉の端々に、大学への進学をしたかったという想いが読み取れた。父の借金がなければ、きっとその望みどおりになったのだろう。
（でもさ、あの人と出会ったのは）
奏子は気落ちした様子の琳子へ視線を向けた。
妹と周辺の掃除を終えると、水を汲んだ母が戻ってきたので、森篠家の墓に花を添えて水をかけ、持って来た線香をあげた。紅白イチゴ大福を供え、手を合わせていると、すぐそばでスマホのシャッター音がした気がした。
それぞれ、近況を報告する。
「お父さん、私、今年から働き始めたの。立派な社会人になれるように頑張るわ」
その先は言葉に出来なかった。
友人の借金の保証人になり、遺産や保険金はそのために消えてしまった。だから、大学進学をあきらめた。困っている人を見捨てられない父の性格は知っているが、家族のことはどう思っていたのだろう。もう少し、家族のことを考えてほしかった。そう口にしそうになったが、やめておいた。今の立場も悪くないと思っているから。
「頑張るわね」
琳子はもう一度、そう言った。
近況報告、奏子の番が回って来た。勉強のこと、楽しかったこと、嫌だったこと、そして、
「後ね、父さん。なんと、父さんの大事な娘、琳子お姉ちゃんに彼氏ができたよー！」
「あ……ちょっ」
「初彼だって、初彼！ 時々、見たことない表情になるから、お姉ちゃんの可愛さがましたんだー！ それからそれから」
姉の近況報告の方が長くなってしまい、琳子は慌てながら奏子を止めに入るのだった。
あとがき
担当マスター：
高城ヒト
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いつもとは少し違う日、お父さんに想いをはせることができたでしょうか？
当たり前の存在について、考える時間ができたのではないでしょうか？
ご参加ありがとうございました。
当たり前の存在について、考える時間ができたのではないでしょうか？
ご参加ありがとうございました。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2021年10月27日
- 参加申し込みの期限
-
- 2021年11月03日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2021年11月03日 11時00分
