拝啓、お父さんへ｜リアクション

拝啓、お父さんへ

　羽生碧南はシーサイドタウンのmiaoの前で辺りを見回していた。
「ん、きたきた」
　今日の主役にして碧南のデートの相手。
「はーい、お父さん」
　碧南父は苦笑を浮かべながら歩み寄ってくる。
「待たせて悪かったな」
「大丈夫。それより」
　碧南は父の姿をまじまじと観察した。
　父たじたじ。
「うん、ジャケットにノーネクタイは悪くないね。ただ、色合いが地味かなー。控えめな柄物でも良かったと思うけど」
「手厳しいな」
　碧南父はそう言って、
「じゃあ、行くか」
「うん」
　と、父が碧南を見る。
「抜かされたなぁ」
「成長の証だからね」
「将来の練習でもしておくか？」
　父が腕を差し出してくる。
「！」
　碧南はくすくすと笑う。
「複雑そうな顔で言わないでよ」
　そう言って、父の腕に自分の腕を通す。
　バージンロードを歩く、花嫁とその父のような構図だ。
「最近はどうだ？」　
　そんな父の問いに答えながら、近況を報告しあう。
「お父さん、ここ入ろう」
　UNISHIRO。
　料理好きの父のプレゼントはここで選ぶことにする。
（去年は料理本だったのよね）
　今回は料理に役立つものが良いだろう。
　ふと、父が男性用エプロンを見ていることに気づいた。
（エプロン、良いかも）
　藍色の板前風エプロンが中々格好いい。
「お父さん、プレゼント、これで良い？」
「ん？　あ、いや、プロがつけるようなエプロンだから」
　気に入っているのは明白だった。
「店員さーん」
　問答無用。試着させてから、プレゼント包みしてもらい、目的の一つを達成した。
「うむむ、もったいなくて使えないな」
「もう、今日から使ってよね」
　そんな話しをしつつ、映画を見ることにした。内容は家族の絆を描いたヒューマンドラマ。
心がバラバラだった四人家族がそれぞれの悩みや思いを知って、成長していくという、終盤は泣ける展開の連続だった。
　映画館から出た父は思いっきり目を赤くしていた。
「うちと似てる家族だったね」
「ああ」
　碧南は父の顔を覗き込んだ。
「何か食べて帰ろ？　お父さん」
　父の日デートはもう少しでおわりだが、また来年も、と思わずにはいられない。

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