拝啓、お父さんへ｜リアクション

拝啓、お父さんへ

　綾辻綾花は、先程出くわした早川珪と店が多く並ぶメインストリートを歩いていた。
「男性の意見を聞きたい、か。僕で良ければ手伝うよ」
「ありがとうございます」
　先日の母の日に一緒にプレゼントを選んだのだが、思った以上に喜んでいたようなのだ。今日はお互い父の日のプレゼントを、選ぶことになった。
「お酒が好きなんだ」
「はい、でもお酒の種類は詳しくないですし、そもそも未成年なので買えないので何か良いものはないかと」
「考えてるものはあるのかな？」
「お酒に関係あるものなのでおつまみセットとか、製氷機、アイスキューブなんていうのも考えたんですけど」
　早川先生は少し考えて、
「なんのお酒が好きかはわからないんだっけ」
「色々飲んでたと思います」
　そして、グラスは使い切れないほどあるのだ。
「やっぱり、何か形で残るものが良いと思う。おつまみセットと何かずっと使えるものがいいね」
「そうですね」
　早川先生に連れられて、大きな酒屋に行くことになった。一人で入るには躊躇う場所だが、早川先生と一緒なら堂々と商品を見ることが出来る。
「ん？」
　店内に入ってすぐ、早川先生がとある棚を見上げた。
「日本酒ですか？」
「ああ、いや。珍しい酒があったからね。……うちの父も好きだからいいかも知れない」
「珍しいお酒って、プレゼントになるものですか？」
「ああ、飲んだことがないお酒なら、喜ばれるだろうね。ただ、その人の好みが分からないと難しいと思う」
　綾花は頷いた。
「やっぱり、私にはハードルが高そうです」
　大人しくお酒に関するものに絞った方が良さそうだ。
　キョロキョロしながら、店内を歩く。
「あ、これがアイスキューブですよね」
　透明なものから石を切り出した風のものまで、様々なアイスキューブが並んでいた。冷凍庫へ入れておき、氷の代わりにグラスへ入れると薄まらずにお酒を楽しめると言うわけだ。
「綺麗……」
　氷を模しているだけあって、透き通った綺麗なデザインが多い気がする。
「これにして、名前を掘ってもらうのはどうですかね？」
「うーん」
　何故か早川先生は首を捻った。
「お酒が最後まで美味しく飲めるから良い商品ではあるんだけど。お父さんは長い時間お酒を飲むのかな？　もしそうなら、向かないかもしれないよ」
「あ、段々冷たくなくなって来ちゃいますよね」
　氷なら継ぎ足しながら飲めるが、アイスキューブの場合は上手く行かないだろう。
「僕はこれがおすすめかな」
　それは、製氷機だった。大きな丸い氷、細かい氷、普通の氷など、様々な製氷プレートがいくつか入っているセットだ。
「よく氷を入れて飲んでいるので、喜ぶかもしれません」
　綾花はそれを手に取って見てみる。
「どうだい？」
「はい、これにします」
　早川先生の意見は非常に参考になった。やはり、お酒を飲む人でないと分からないことはある。
「よかったね」
「それじゃ、先生のお父さんのお酒も探しましょう」
「ああ、ありがとう」
　お酒だけではなく、何か形に残るものを。綾花もそう提案することにした。

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