とまどいエチュード｜リアクション

とまどいエチュード

◇第三幕：革命
　今や街は、混乱のただ中にあった。
　あちこちで反乱の火の手が上がる。
　どこからかやってきた令嬢達の一団は、ドレスがすすで汚れるのもかまわず、自由を求めて蜂起する。
　巨大な盾に身を固めた、市民相手の暴力も辞さない非道な警察隊は、あるいは奇妙なオモチャを扱う少年達によって妨害され、あるいは二刀流の銃のバニーによって粉砕された。
　どんな堅牢に見える王国も、一夜にして滅びるものだ。
　そして、新たな闇の王国に君臨するのは―――。

　――キングス！

　突如姿を現した『魔王』に、警官隊がどよめく。
　市民は恐怖に、玄関とドアをぴっちりととざす。
　その圧倒的な迫力に、観客席も押し黙る。

　『魔王』のＢＧＭをバックに悠然と立つキングス。
　傲然と立つ彼の周りを、十重二十重に警官隊が囲む。
　その時、キングス――ラッセルは深呼吸し「こちら」をしっかりと見据えて、言った。
「ひとつ聞きたい――『あなた方』を巻き込んでもよろしいか？」
　観客がどよめく。
「そこのあなた――見ているだけじゃなくて、共闘しないか？」
　大胆不敵！　ラッセルは「舞台の外」の人間に、共闘を求めて来たのだ！
　突如放り込まれた夢の劇場。そこは現実が夢となる、鏡の世界。ならば、観客が演者となって、いかなる不思議があろうか？
　かつてのギリシア円形劇場では、観客を取り巻くように合唱隊が歌を歌った。
　先鋭な舞台の世界では、俳優達が街頭にあふれ出して、観客と討論を繰り広げる。
　演劇の中に観客のドラマを組み込む仕掛けは、演劇そのもの仕掛けと表裏一体。
　ラッセル――キングスは、闇の王として、観客の心までも震わせ、解放しようとしている。

「それならばっ！」
　勇躍、弁士の衣を脱ぎ捨てて舞台に飛び出したのは案内役のあいおとまゆら。
「幕間の案内役を仰せつかっていた喜矢武あいお、故合ってキングス殿に共闘するのですぅ！」
「メタ構造っていうのかしらね……面白ければいいんだけど」
　手にしたジュリアナ扇子で、ばったばったと警官隊をなぎ倒していく。
　――姉さんもアドリブはお手のものでした。自分もちょっとはやるのですぅ！

　――キングス！
　――キングス！

　観客席からも、彼らのスターを呼ぶ声が、怒濤のように押し寄せる。
　それはそのまま、暗黒街の王をたたえる、声なき人々の声となった。

「させるか！　全員牢屋にぶち込んでやれ！」
　あらぶって大声を上げる警察隊長（演；鴻上彰尋）の指示に、飛び出してくる警官隊。
「あら、失礼。まだ良く世間に慣れませんもので」
　片端からヒールキックでなぎ倒していくアシュリー。
　ドレスの裾を翻す姿は、なにやら令嬢の優雅なダンスじみている。
　鮮やかな旋風脚で警官隊を蹴り上げて、ドミノ倒しにする。
「あら、わたくしにかないませんのね」
　昂然と高笑いを放つ。
　――これはうまくいったな。この調子でいくか。
　不敵に笑う彼女の身内から、すさまじい力が湧き上がる。
　彼女は令嬢であるかどうかに関わらず、舞台の上で最高に光輝き、最高に彼女らしかった。

「とあああーーっっ！　あるときは悪役令嬢、あるときは幕間の弁士、はたまたあるときは革命に手を貸す謎の戦士、しかしてその正体は！
　近頃バズりまくりの姉妹mewtuberが一人、喜矢武あいおなのですぅ！」
「天に唾する悪漢ども、成敗いたす！」
「し、修くん、こういうのでいいの……？」
　奮闘する悪役令嬢軍団、武装親衛隊を片端からなぎ倒す。
　彼女たちの開いた血路を進むのは、バニーの殺し屋と、闇の帝王。
　その彼方に、王城がある。