落ちる世界に雲がある｜リアクション

落ちる世界に雲がある

　白石龍樹は、はっとして目を開けた。いつの間にか意識が落ちていたらしい。
「うわ、全部灰色だ……！」
　視界に広がるのは灰色の空の世界。龍樹は思わず目をこする。
「……夢、かな？　って、え？」
　そして、目の前に顔のない女の子が不思議な形の雲に乗っていた。こちらを見ているようだ。そして、こちらに見せつけてくるのは色とりどりの金平糖だった。
「なんだ、それ」
　と、頭の中に声が響いて来る。
『返してほしかったら、追いかけてきて』
　少女はくるりと背中を向けると、様々な形の雲を渡って遠く離れていく。
「え、鬼ごっこか？　そういうことなら」
　龍樹はにっと笑った。
「負けないぜ！」
　勢いよく空へ飛び出す。何故だか落ちる気がしない。
「すげえ、ジャンプできる！？」
　重力も弱いらしく、落下スピードも遅い。加えてジャンプの飛距離が半端ではない。
「よし、これなら」
　龍樹は着地した雲からジャンプした。次々と足場を蹴って女の子を追う。
「いたっ」
　逃げて行く背中が見えた。スカートのポケットにきらりと光るのは金平糖だろうか。
「これは捕まえるまでもないな」
　金平糖だけを取り返せば良いのだ。
　と、着地した雲が風の力を秘めていることに気づいた。
「これだ」
　龍樹は風の雲から後ろにジャンプして、思いっきり蹴った。サッカーでゴールにボールを叩きこむイメージだ。
　しかし、
「ん？」
　少女も同じようにして近くの雲を蹴ってきた。風の雲と激突して、稲光が灰色の空にかかる。
「やるな」
　少女は着地した雲に乗って、手に持っているそれを見せつけてきた。
「！」
　龍樹も雲の足場に着地する。
「残念」
　顔がないはずなのににやりと笑った気がした。彼女が投げたのは恐らく炎の雲だ。
　龍樹は近くにあった水の雲を蹴って、足場の雲から飛び降りる。緩い重力に従って、自分の体が落下し始める。と、その直後、爆発した。相殺されたそれらが互いに破裂したのだろう。
「隙ありだぜ！」
　龍樹は落ちながらも近くにあった風の雲を少女めがけて蹴った。巻き起こる風は下から上へと吹き上げる。
『きゃっ』
　少女の声とともにスカートが舞い上がる。
「必殺、スカートめくり！」
　風に瞬いたスカートから零れた金平糖のケース。龍樹は近くの雲を足場にして蹴った。
　落下し始める体。龍樹は器用に体を捻り、金平糖に手を伸ばす。
　そして、
「いよっしゃー！」
　少女を傷つけずに、取り返したのだった。

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