装飾譚：女性の靴「Cendrillon」｜リアクション

装飾譚：女性の靴「Cendrillon」

いつものようにシーサイドタウン駅の本屋で買い物をした金剛優芽。考えていたより早くに用事が終わってしまったため、ふらりと寝子島ティアラに立ち寄ってみた。
「わー。本物のガラスの靴がありますー♪」
優芽がタタタとサンドリヨンのショーウィンドウに近づく。小さい足のためのガラスの靴がきらりと光を跳ね返している。童話の世界から飛び出してきたような店だった。
素敵なお店ですね。私でも入って大丈夫でしょうか……？
こういうお店は大人な女性やおしゃれな子じゃないと入り辛いような……。
興味はあるけどもじもじと踏ん切りがつかない優芽。ガラスの靴に熱い視線を注いでいると、ガラス越しに店内にいる宮祀智瑜と目が合った。あまり話したことはないけどよく見かける。担任の桐島先生によく質問に来ている子だ。
「こんにちは。２組の金剛さん、ですよね」
「私のこと、知っててくれたんですね！　えと、確か宮祀智瑜さん……？」
「はい。こんなところでお会いするなんて偶然ですね」
知った顔がいて店に入りやすくなった。優芽は智瑜と一緒に靴を見て回る。
「へー。智瑜さんはヒールのある靴が好きなんですね」
「はい。ちょっとでも背を高く見せてくて。その、背が低いと中学生に間違えられたりしそうですから」
少し恥ずかしそうに話す智瑜。身長の近い優芽はわかるわかる、と頷いた。
「大人っぽいやつは難しいですよね。私も……例えば、この黒のパンプスとか憧れるんですが」
そう言って、棚に飾られた一足を手に取る。ワンポイントにリボンのついた大人な雰囲気のものだ。
「……こういう靴を履くからおしゃれになるのか、おしゃれだからこういう靴をはけるのか、それが問題なのです」
むう、と唇を尖らせる優芽。
「せっかくですし、試しに履いてみたらどうですか？」
「そ、そうですか？　いいでしょうか」
「靴って履いてみないとわからないですから。私もさっきからたくさん試着してるから、大丈夫ですよ」
言われてみると、智瑜の近くには何足かの靴箱が積まれていた。リボンやファーの付いた靴が多い。かわいらしいデザインが好きなようだ。
智瑜に勇気を貰って試着してみる。靴は考えていたより歩きやすかった。その辺を歩いてみたり、鏡に姿を映してみたりする。
「わわっ。やっぱり素敵な靴ですねー」
「かわいいですよ、優芽さん」
智瑜が胸の前でぱちぱちと小さく手を叩いた。優芽が照れたように微笑む。
「ありがとうございます。ひとりじゃ、お店の中にも入れなかったかもしれません！　一歩、進んだ気分です」
「ふふ」
「智瑜さんの靴も選びましょう！　何か迷ってる靴とかあるんですか？」
「えと、実はずっとこの２足で迷ってて……。このスウェードのウエッジソールとファーの付いたブーツなのですが」
靴は高校生には高い買い物だ。本当は両方欲しいがお財布事情でそうもいかない。
「なら、長くはける方にしたらどうでしょうか。歩きやすい方にしたらどうです？」
「歩きやすいのですね……それだと、こっちのウェッジソールでしょうか。かかとがしっかりしていて、歩きやすいです」
智瑜は学校のローファーでもよく転ぶので、歩きやすさは大事な要素のひとつだった。優芽の助言を受けて今回はウェッジソールを買うことにした。
「金剛さんはさっきの靴どうしますか？」
「私は……うーん、今回は見送ります。あの靴が似合うようになったらまた！」
少し名残惜しそうに言いながら、優芽は靴を元あった場所に戻した。とても気に入ったのだが、やはり大人っぽく感じて気後れしたのかもしれない。数年後、優芽が今より大人の女性になったら迎えに来れる日もあるだろう。
「あっ。金剛さん、こっちのスポーツコーナーもいいですね。ウォーキングシューズかわいいのありますよ」
「ほんとですねー♪　最近のスポーツシューズかわいいのいっぱいです！　ふむ、こっちはカロリー消費しやすいんですか」
「ダイエット効果は気になりますね。こっちのピンクの可愛いです！　あ、でもこっちの水色もおしゃれです」
「智瑜さん、リボンが水色ですけど青が好きなんですか？」
「水色はよく着ますけど、浴衣とかでピンクも持ってますよ」
「ピンクも似合いそうです！」
きゃっきゃっと盛り上がるふたり。せっかくだからと別のフロアにも一緒に行くことにした。智瑜は新しい靴の入ったサンドリヨンの紙バッグを店員から受け取ると、この靴がはける季節が来るのが待ち遠しいと優芽に伝えた。

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装飾譚：女性の靴「Cendrillon」

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