星ヶ丘寮の新年度｜リアクション

星ヶ丘寮の新年度

☆入寮の季節

「はーいそがし」
　星ヶ丘寮のエントランスで検品作業を終えた八咫鏡の口から、思わずそんな言葉がこぼれました。
　小柄で愛らしい容姿、少女にしか見えない鏡ですが、れっきとした成人で、しかも男性でした。
　星ヶ丘寮に勤務し、門番、巡回、寮に入るモノのチェックなどの仕事をしています。
　この時期は新入生が入寮する時期、つまり引っ越し作業に追われているわけで。
　他の寮とは違い、星ヶ丘寮の入寮者はお金持ちばかり。
　一人に家一軒分のスペースがある上、居室の調度品を家庭から持ち込む生徒も多く、高価な品が持ち込まれることもままあります。
（あちら様の使用人を全く信用していない訳ではないですが、万が一の不備があってはスタッフは面目立ちませんし）
　生徒には変わり者も多く、寮や生徒に多大な害を及ぼすものが持ち込まれることだって、ないとは言えないのです。
（まあ神魂はどうしようもないですけどね）
　どれだけ注意してもいろんなハプニングが起こるのが寝子島であり、そうした対応にも慣れている鏡でした。

　やっと仕事が一段落し休憩を終えた鏡の前に、髪が黒と白に分かれている少女が現れました。
（はて見かけない方ですが……新たな入寮者？　或いは御見学の方でしょうか）
「こんにちは。新たに入寮された方でしょうか？」　
　声をかけた鏡に、滴は答えます。
「はい、新入生の黒白滴です～。寮を見て回ろうと思ってたところです～」
「黒白さんですね」
　鏡は記憶の中から新寮生の名前と顔を引っ張り出し、一致を確認して頷きました。
「私で宜しければ御案内致しましょう。あ、私『郵便屋』の八咫鏡と申します」
「郵便屋さんですか？」
　滴はきょとん、としました。
「郵便屋と言っても郵便局の職員ではなく、星ヶ丘寮の配達担当職員です」
　鏡は高い記憶力からこの役割を任されており、この仕事は巡回も兼ねているのでした。
「そうなんですね～。では、お願いします～」
「任せてください。この寮は東西に分かれていますが、東から行きましょうか」
　笑顔を向けて、鏡は先に立って滴を案内するのでした。

「助かりましたぁ。ありがとうございます」　
　一通り案内すると、滴はにこやかに丁寧に鏡に頭を下げました。
「どういたしまして」
　鏡もそれに笑顔で答えながら、特に問題はなさそうな子だなと思うのでした。

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