春模様の参道商店街｜リアクション

春模様の参道商店街

●着物と和菓子と猫

　八神修は七夜あおいと一緒に参道商店街へやって来た。
　春物の洋服や着物のセール、新作の桜スイーツなどが目白押しだ。

「色々あるな……」
「そうだね。商店街がまるごと春って感じ」
「季節の菓子を巡るのも楽しそうだね」
「どこから行こう？」
「迷うなぁ……」

　修とあおいはチラシを見ながらこれからのことを相談する。
　こうして相談している時間さえも楽しかった。

（和装の体験もできるのか……）

　修は『きもののさくら屋』で着付け体験ができると知って、思考を巡らせる。

（和服を着て和菓子を食べる……なかなか風流だ。でも着付けにはそれなりに時間も必要だし、動きにくさもある。それに汚す可能性もあるから、気楽に食事を楽しめないかもしれない……）

　あおいは桜大福や春色どら焼きなどに目を奪われている。そんな彼女にそれとなく着物の話を振ってみる。

「着物かぁ……う～ん、普段着ないからよく分かんないかも」

　そう言いながらサンプルの着物を眺めてみる。よく分からないものの、その鮮やかさやデザインには少し興味がありそうだ。あおいはチラシに顔を向けたまま、ちらっと目線を修に送る。

「行ってみるかい？」
「……うん！」

　どんな着物があるかなと話しながら、商店街を進む。
　様々な店舗が並ぶ中に『きもののさくら屋』はあった。

　店員に促され、着物を選ぶ。修も一緒に立ち会って、どれがいいかと話し合う。
　決めたのは、淡い桃色の生地に、少し色づいた桜をあしらったシンプルなもの。
　比較的動きやすく、修の懸念は回避できるだろう。
　そしてそれらの心配を容易く超えるほどに、それを着たあおいの姿はとても可憐だった。

「すごく、似合ってるよ」
「ほんと！？　ありがとう」

　レンタル可能ということで、あおいは着物姿で修と一緒に店を出た。
　それからしばらく歩いて喫茶スペースのある店舗に入る。
　この店舗の裏側には小さな日本庭園があって、２人はその縁側近くの席に腰を下ろす。

「俺はよもぎ餅にしようかな」
「私は桜餅」

　注文したものが運ばれてくるまで、以前よもぎを採ったことや目の前に広がる日本庭園のことなどを話した。

「なんだか静かだね」
「ああ。通りから遠いからかな」

　風の音が心地よく修の耳に届く。ここだけ別世界になったような気分だ
　やがてそれぞれの菓子が運ばれてくる。口に運ぶと幸せな甘みが広がる。

「おいしい！」
「うん、いいね」

　餅の味を楽しみながら、お茶の風味も堪能する。

（美味しいは正義だな）

　そんなことを思いながら幸せを嚙みしめる。
　ふと気配がして、見てみると猫が縁側に遊びに来ていた。どこかの細道からやってきたのだろう。
　思いがけない幸運に喜ぶ２人。

（春の縁側に猫、そして俺達。天気ものんびり暖かい……）

　幸せを改めて感じる修。

「こういう穏やかなお出かけもいいものだね」
「そうだね」

　２人は和菓子や猫とともに、しっかり春を味わった。

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