春模様の参道商店街｜リアクション

春模様の参道商店街

●２人で過ごす春の時間

　４月に入り、長い春休みもそろそろ終わりに近づいた。
　城山水樹は春の風に撫でられながら時間の流れを感じとる。
　すっと右手を広げると、その風に乗ってきた桜の花びらが乗る。

（本当に春が来たんだなぁ……もっとも、春休みの間モデルの仕事が忙しかったので全然休みと言う気はしなかったけれど）

　季節の変わるタイミングというのは特集が組まれやすい。
　そのため春をテーマにした企画がいくつもあり、それらをこなす日々が続いていた。

　それらがようやく落ち着いたのが４月初旬ごろ。
　恋人のヒュー・ヒューバートとなかなか会うタイミングが無かったが、ようやくお互いの休日が重なったので旧市街で待ち合わせしていた。
　彼も仕事柄、この時期は忙しいのだろう。水樹がそう思っていると、ヒューが待ち合わせ場所にやって来た。

「水樹、仕事お疲れ様」
「ヒューもね」

　お互いに労いの言葉をかける。でも仕事のことはここまで。
　今日は仕事のことは忘れて、参道商店街で過ごす予定だ。

　春模様の参道商店街は華やかな空気に満ちていた。
　そのなかで、水樹はある看板を見つける。

「ねえ、着付け体験やってるよ」

　水樹の目線を追うと『きもののさくら屋』という呉服屋があった。
　どうやら春物の着物の着付け体験ができるらしい。
　彼女はこれに興味を持ったようで、ヒューのほうを見て訴えた。

「……ね、一緒に着物着てみよ？」

　ヒューが頷くと２人で呉服屋に入る。
　店内には様々な着物が展示されている。

　水樹は店主と挨拶を交わす。
　地元でこの店はご近所なのでそれなりに親しい。

「お２人とも着付けの体験をしますか？」

　その問いに顔を見合わせてから２人とも頷いた。
　ふと、同じ背丈だから視線が合う。そのたびにお互い赤面してしまうのは相変わらずだった。

（こんな気持ちがいまだに続くなんて……）

　水樹はそう思いつつも、これからもずっとこんな関係でいたいと思った。それから、それぞれの着物選びが始まった。

　ヒューは色々と候補があるなかで春を告げるうぐいすをあしらった、緑を基調としたデザインの着物を選んだ。

　一方で、水樹はどれにするか悩んでいた。
　春らしい、明るく温かな色や柄の着物がいくつも並んでいて、どれにしようか目移りしてしまう。

「どれがいいかな？」

　そう問いかけられたヒューは少し考える。
　水樹ならどれを着ても似合うだろうけど、色々悩んだりするのも楽しんでいるようなので、こちらからあまり細かく言わない程度に返事をした。

　お互いに着るものが決まり、それぞれ着付けをしてもらう。
　しばらくして着付けが終わると、２人はお互いの姿を初めて見た。

　桜のアクセントが綺麗な着物と、緑のうぐいすが鮮やかな着物。
　それに帯留めなどの小物を組み合わせて、髪型も整えている。

　２人とも、相手の美しさに言葉も出なかった。

　着物はレンタル可能ということで、２人ともその格好で商店街をふたたび散策する。
　色々みて回り、和菓子屋に立ち寄って、和菓子とお茶を楽しむ。
　それぞれ桜餅と煎茶を注文し、桜の舞う景色を眺めながらゆったりと過ごす。
　　
（今日はカメラは持ってきていない。それが惜しまれるけど、その方がいいかもしれない。いつまでも記憶の中に刻まれるから）

　ヒューはそう思いながら水樹のほうを見ると、水樹もちょうどヒューのことを見ていた。
　思わず赤面する２人。照れながらも完食し、また別のところへ歩き出す。

　そうしてとてもほっこりした、いい一日を過ごした。

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