猫☆カレー博！｜リアクション

猫☆カレー博！

　猫☆カレー博の黄色い横断幕をバックに、キュピリン☆ と魔法少女みたいなポーズを決めて記念写真を撮っている一行がいる。『究極のカレーを求める会』会長の座を兄から引き継いだ鬼河内萌以下、メンバーの野々ののこ、顧問の白沢絢子先生。それからメンバーではないものの萌に誘われてやってきた野菜原ユウだ。
「全てのご当地カレーを食べる為、『究極のカレーを求める会』出動だよ☆　目指せ、コンプリート！！」
　萌はメンバーの先頭に立って意気揚々と人差し指を立てる。
「目指せ、コンプリート！　えいえいおー！」
　会長に倣ってののこも人差し指を立てる。
「コンプリート？　マジ？」
　食いきれるかなあ、と心配そうな顔をするユウの手を強引に引いて萌はゆく。
「まずは北海道から！　沖縄まで順番に食べまくるよ！」
　元気いっぱい少年少女たちのあとを、あらあらまあ、とおっとりした足取りで絢子先生がついてゆく。

　そんな『究極のカレーを求める会』メンバーとすれ違って２杯目を探し求める流へ視点を移そう。
「ふぅ、牡蠣カレー美味かった……さて海鮮カレーの次はやっぱ肉で攻めたいとこだな、松坂にザンギ。俺のハートはどっちにときめいているんだ？」
　胃袋に問いかける流。
「……お？　秋田はオクラの他に比内地鶏のカレーもあるのか……こいつだ！　俺はビーフよりチキン派なのだ！　すいませーん、一つくださーい！」
　秋田県で飼育されている比内地鶏は、薩摩地鶏、名古屋コーチンと並ぶ日本三大美味鶏のひとつだ。
　はずれのわけがない！！！
「ん！　これこれ、鶏のうまみが染み出たルーに比内鶏のうまみ！　俺の腹はこいつを求めてたんだ！」
　大☆満☆足。
　美味かった、と腹を擦ってふと見ると、皆の視線がひとりの女子高生に注がれている。
　
　規格外の方向音痴、楡宮遠海が会場にたどり着いたのは11時過ぎだった。朝一で家を出たというのに4時間も迷子になってしまったのだ。しかしそのお陰でいい感じに空腹になった。
「上下左右どこを向いてもカレーばっか！　これは食わずしてなんという！」
　どれを見ても美味しそうに見える。
　遠海はまず、福島のトマトカレーを一杯注文した。
「疲れた身体にトマトの酸味が効く～！」
　決して派手な食べ方ではないのに、皿が空になるのが早い。
　それもそのはず、規格外の方向音痴な遠海のもう一つの肩書は「規格外の食欲魔人」。
　トマトカレー一杯程度は前菜といったところだ。
　トマトカレーをご馳走様した遠海は、次にザンギカレーを食し、そこから前沢牛カレー、闘魂しゃもカレーとガッツリと肉系のカレーをいただいた後でさっぱりゆずカレーで口直し。それから大間のマグロカレー、ぷりっとふぐカレー、新食感海ぶどうカレー、越前ガニカレーと海鮮系を制覇し、それから茶豆カレーで箸休めならぬスプーン休め。
　その頃にはすっかり人目を引いて、華奢で可愛いけどめっちゃ食べてる女の子がいる、と話題になっていた。
　なにしろ見た目だけなら清楚な鎌倉の名家のお嬢様然とした美少女なのだ。
　それなのに、というギャップ萌え。
　遠海の喰いっぷりを見届けるべく彼女の後を追うファンも生まれ、人だかりができつつある。
　ところが遠海はそんなことは１ミリも気にもせず、マイペースにがっつくことなくよく味わいながらただひたすらに全国津々浦々のカレーを一人で胃袋に納めていく。

「む、む、む！」
　「目指せ、コンプリート！」を目標に掲げ究極のカレーを求める会の活動――とにかくカレーを食べる――に勤しんでいた萌は、遠海に向かってライバル心をむき出しにした。やばい、あの子の方が後から来たのに先にコンプリートされそうだ。
「ユウくん！　ののこちゃん！　負けずに食べるよ！」
「お、おう」
「うん！　まだ行けるよ、萌ちゃん！」
　そう言って向かった先は、宮城県の『まんぼうカレー』。
「マンボウ！！　たんぱくな味で、意外と美味しい！」
　そう叫んだ瞬間、通りかかったまんぼうくんが若干悶えるような顔をしていた気がする。

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