あなたの進む道｜リアクション

あなたの進む道

●料理を極める第一歩

「あたしもいよいよ卒業。夢に向かっての第一歩を踏み出す日が近づいてきたね……ちょっと緊張するな……」

　３月。
　琴村嬢はこれまでのこと、これからのことを思い描く。
　彼女は４月から調理師専門学校に通うことが決まっている。

　担任の高野有紀先生には体育系の学校へ進学しないのかと尋ねられたことがある。
　じつは２年生のときも、当時の担任だった相原まゆ先生にも同じようなことを言われた。

　寝子島高校の体育科に通っているのだし、先生たちがそう思うのは自然かもしれない。
　けれど親も賛成していると有紀先生に伝えると納得したようだった。

（料理の腕前をもっと上げたい。本格的に料理の勉強がしたい）

　実家の寿司屋を継ぐことは前から決めていた。そして４月からそれができる環境に飛び込む。
　家族連れや小さい子供にも来てもらえるような寿司屋にしたい。それが嬢の夢。

（回転寿司のように、幅広い年齢層にうちのお店に来て欲しい。寿司ネタのレパートリー考えたり、一品もの増やしたりしたいな）

　そんな風に考えながら、１年生の頃を思い出す。
　彼女は１年生の秋に交通事故に遭い、長期入院していた。
　そのため出席日数が足らず、１年留年している。

「1年の時のクラスメイト達は先に卒業しちゃった時は、ちょっと悲しかった。そんなあたしも卒業生になるんだよね……」

　卒業間近のある日、店の手伝いをしながら親と進路について話した。
　この店は嬢の父が寿司職人として厨房に立ち、母が接客を担当して切り盛りしている。

　仕事をしながらではあったが、２人は嬢の話をちゃんと聞いてくれた。
　嬢の父は自分の好きな道を進むように、と言った。
　それでも嬢の店を継ぐ決意は変わらない。
　最初はあれこれ言われたけど、今は折れたようだ。

「決めたからにはやるよ、あたし」

　嬢は希望を持って、４月からの生活に臨む。

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