あなたの進む道｜リアクション

あなたの進む道

●新しい世界へ

　それは３月中旬ごろのこと。

　この時期になると人事異動の発令がある。
　三折部朝衣は寝子島町役場に入ってから今年で３年目。
　大体３年目あたりで人事異動の対象になる。

　だからだろうか。
　所属先である総務課に出勤しても、なんとなく落ち着かない。
　先輩から『人事異動の内示が出るのは、異動の２週間前がこの役場での慣例』ときいている。
　もちろん何事もなく、そのまま総務課で変わらないということも大いにありえる。

　ただ、彼女には観光課か地域振興課への異動が噂されている。
　これまで猫の肉球のスタンプを集めるギネス挑戦や芋煮会といった、
　各種の町おこしイベントのプロジェクトリーダーに任されたことがある。
　それらの企画は成功し、彼女の評価は上々だったりする。

（もし異動があるとしたら、今日あたり内示がくるのかな？）

　デスクにつくものの、気もそぞろで仕事に手がつかない。
　どうにも落ち着かないまま、何事もなく午前が終わり昼休みの時間に。
　休息を取ってから午後の仕事を再開して、気がつけば１６時になっていた。

（今日は内示はないか……でも年度末だから今日も残業よね……）

　溜息をつく朝衣に、課長が声を掛けてきた。
　促されるままに会議室の１つに移動する。

「忙しいところ申し訳ない。人事異動に関することで個別に話そうと思ってね」
「はぁ、なるほど」
「じつは、今回の人事異動で、君を町長室付の秘書にどうかという話がでている」
「え？」

　朝衣は想定外の内容に思わず驚きの声を漏らす。

（観光課とか思ってたのに、なぜ？）

　彼女の疑問をよそに、課長は話を続ける。

「これまでの仕事とは性質が異なるし、責任も大きくなる。ただ前向きに検討してもらえるとありがたい」

　そういうと課長は会議室を後にした。

（大丈夫、かな……こんなあたしでも）

　朝衣はこれからのことを考えながら、残った仕事を片付けるためにデスクに戻った。

このページにイラストを設定する