あなたの進む道｜リアクション

あなたの進む道

●社会人になるということ

　ある休日。
　森篠琳子は朝方に目を覚ました。
　彼女は現在高校３年生。寝子島高校で過ごす日々も僅かとなり、卒業式までの日々を残すのみとなった。

　この春、琳子は社会人になる。ただ、少し複雑な心境だった。

　琳子が高校１年生の時に父が急逝した。
　その際、生命保険金とそれなりの遺産を受け取った。
　それを学業の資金に充てれば、国公立大学なら進学できただろう。
　しかしお人好しだった彼は、友人の借金の連帯保証人になっていた。

　契約書の前になす術もなく、それらのお金は全て借金返済に消えた。

　まだ９歳の妹、奏子がいるうえに、保険外交員の母は決して体が丈夫だとは言えない。
　これから先、どう状況が転ぶかわからない以上、進学を断念せざるを得なかった。

　ふと目を向けた先には新生活のために準備したものがまとめられている。
　通勤用のカバンや手帳、腕時計、名刺入れ、財布、ハンカチ、ストッキング、化粧品……こまごまとした必要なものを色々と買い揃えた。

（スマホは今使っているもので間に合う）

　いまあるもので事足りるなら、それに越したことはない。
　スーツは以前行ったＮＹＡＯＫＩで購入した。
　店員に勧められるままに試着して、同じ色のスーツを２着、スカートとパンツを１着ずつ買った。
　その他シャツや小物類も買って、帰りに別の店でパンプスも買った。

（これで一応は、外見だけは新入社員の出来上がり）

　琳子は大きく息を吐いた。
　思考が迷子になる前に、奏子が声を掛けてきた。

　今日は寝子島外の遊園地へ行く約束をしている。
　目を輝かせた奏子が琳子の支度を待っている。

「すぐ準備するから待ってて」

　琳子は手早く身支度を整える。
　入社後は２か月の新人研修が行われる。
　研修後の配属先次第では、妹の相手をしてあげられなくなる。
　だから、寝子島高校を卒業する前に、この日を設けた。

「お待たせ。それじゃ行こうか」

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