モノにも歴史あり｜リアクション

モノにも歴史あり

●もきゅ子との出会い

　エノコロ岬を出発したふしぎ超特急『七ッ星』の旅から数日後。
　愛猫萌々子は、寝子島マリンパラダイスに来ていた。
（どうしても、あの子のことが忘れられません……）
　ここに来たのは、『七ッ星』で海底世界に行ったときに出会ったアザラシの子供のことを思い出す。
　せっかくなので、寝子島に来て初めての水族館に行こうと足を運んだのだった。
　水槽を泳ぐ様々な魚、ラッコ、アシカショー、マリンショーを見たりと一通り回る。
　青く澄んだ海で泳いでいる色とりどりの魚達、タコやペンギン、シロクマやアザラシといった旅のお供だった子達は、今頃どうしているのだろうか。
　プールをスイスイ泳いでいるアザラシを見て、あの子は元気にしているでしょうか……と思うと、少し寂しくなった。

　最後に、とお土産売り場へ。
「やっぱり、本物のアザラシも可愛かったです。あの子も可愛かったですが」
　涙ながらのお別れをしたアザラシの子供は今、どうしているだろうかと売り場の前で足を止めた。
　気を取り直し、売り場をいろいろ見て歩く。
「……こ、これは！」
　

　萌々子が見つけたのは『寝子島マリンパラダイスショップ　リアルサイズあざらしぬいぐるみ』。
　その名の通り、大きさや体型。模様がリアルに再現されている出来のアザラシのぬいぐるみだ。
　アザラシ好きにはたまらない商品、といっても過言ではない。
　発見した時、その場から動けなくなった。
（これが雷に打たれた衝撃というものなのですね……）
　しばらくじっと見ていたが、買っていきましょうと手に取り値札を見ると……。
「お値段1万8000円！？」
　税別なので、税込だと1万9800円になる。値段に一瞬怯んだ。
（お値段が高くても、やっぱり欲しいです）
　高校生の萌々子にとって、2万円近い出費は痛い。
　2万円ほどあれば、ペンタブレットといった絵を描く機材が買える。
　数量限定プレミアムなので、ここで買わなければ、もう手に入らないかもしれない。
　買うのを躊躇したそのぬいぐるみのフォルムと目は、お別れしたアザラシの子供にとても良く似ている。

　可愛い！　撫でたい！　愛でたい！　ギューっと抱き締めたい！

　どうしようかものすごく悩んだが、あの子のようなぬいぐるみが欲しいという強い思いが勝った。
「や、やっぱり……すみません、この子ください！」
　購入し終えるなり、袋に入っているあざらしぬいぐるみをギューっと抱き締める。

「とうとう買ってきてしまいました」
　星ヶ丘寮の自室に戻るなり、袋から取り出し、ベッドの上にそっと載せてみた。
「っ～！」
　声にならない声で悶える。
　しばらく見つめていると落ち着いたのか、ようやく声に出して可愛いと言えた。
「可愛いです！　やっぱりお迎えしてよかったぁ！」
　ぬいぐるみ代は痛い出費だったが、あざらしぬいぐるみの可愛さに比べたらどうってことはない。
　萌々子はあざらしぬいぐるみを抱き締め、ベッドの上で、しばらくゴロゴロし続けた。

　せっかくなので、と名前をつけることに。何にしようかと、あれこれ考える。
「海の世界で会ったあの子は、もきゅもきゅと鳴いていましたね。あなたの名前は……もきゅ子！」
　オスでもメスでも通用するような名前にということで、もきゅ子という名前にした。
　もきゅ子を高く掲げ、見つめ合うようにじっと見る。
　あの時に出会ったようなつぶらな瞳で、もきゅ子は萌々子を見ているような気分になった。
　見つめ合っていると、海底世界での楽しい出来事がもう一度あるのではないかと思い始めた。
　いつかまた会えるかもしれない。その日までは、もきゅ子と一緒にいようと決めた。
「うふふ、可愛いですねー、もきゅ子ー♪」
　もう離しませんからねーと強く抱き締め、頬ずりして喜びをかみしめる萌々子だった。

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