朝と夜の交換日記｜リアクション

朝と夜の交換日記

　夜は尊い。
　何ものにも目眩まされることなく、この世界の本当の姿を目の当たりにすることができるから。
　闇は安らぎ。
　数多の星々の中。
　銀河系の端。
　地球という星の。
　日本という国の。
　東の海にちょこんと浮かぶ猫の横顔に似た形の島の。
　涙のように二又に分かれ海に流れゆく川。
　その川を挟んで並び立つ桜花寮という学生寮の。
　とある部屋の窓際で、恵御納夏夜は夜空を見上げながら日記帳を開く。
　裏と表に眠る猫の装飾があしらわれ金の南京錠のついた豪奢な日記帳は、大切な相手との交換日記。
　その相手とは、自分の中のもう一人の自分『恵御納夏朝』。

　もう夜は深い。夏朝の意識はすっかり眠っている。だからこそ自分が出てくることができるのだけれど。
　夏夜はすうと息を吸って心を澄ませる。
　心の臓のとくとくという音が耳朶に響く。
　胸にそっと手を当てる。
　確かにそこに息づいているものがある。
　それはもうひとつの、対になる心。
　夏夜は静かにペンを取り、まだ白いページを開いて頬杖をつく。
　伝えたいことがある。何から伝えよう。彼女が知らない自分の経験？　今思っていること？
　未来のこと？　過去のこと？　――きっとそのどれも正解。それらのすべてを伝えよう。
　交換日記は、彼女のことを想って書く手紙のようなもの。
　夜の手紙は詩になる。
　自分からの書き出しはいつもこう。

　――夏朝へ。

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