忘却の雑貨店と消えない魔法｜リアクション

忘却の雑貨店と消えない魔法

★幸せを運ぶ魔法

　一風変わった『代金』の支払いも無事に終え、買い求めた品を大切に仕舞って。
　恵御納夏朝は外へと続く扉の前に立ち――ごく僅か、俯いた。
「ここを出たら……また、忘れるのかな」
　犬杜初や犬杜一閃、不思議な店を預かる青年に、大切な片割れの夏夜。
　皆と一緒に過ごした素敵なひと時が自分の中から消えてしまうのは、やっぱり、切なかった。
　そんな夏朝の手を、夏夜の手が、あたたかく包み込む。
「……忘れるのは、あるかもしれない。でも……品物は手元に残る。そうだよね」
「……うん。得た物が、皆の所に残り続けるなら……ここでの出来事も、どこかに残るはず」
「それに、僕達は未来の僕達のために、小さな魔法もかけた」
　夏夜の焦げ茶の瞳に、悪戯めいた光が燈って、揺れる。
　どこで写したのか、誰が写っているのか判然としない写真達。
　その中で笑っている『誰か』は合わせて4人で、持ち帰られるペンも、４本。
　少しだけ未来の自分達は、きっと、その謎の正体に、幸せな秘密に気付くだろう。
　写真のデータは共有済みだし、曖昧な写真達も連れ帰れることも店員の青年に確認済みだ。
「そうだね……。うん、きっと、大丈夫！」

「僕達の魔法が、未来の僕達に届きますように！」「うん、届くよ、夏朝」
　皆で生み出したささやかな魔法を、信じると決めたから。
　夏朝は、今度こそ曇りのない、晴れた笑顔で言い切った。
「初ちゃん、一閃さん、夏夜ちゃん、店員さんも……また、ね！」
「ああ。夏朝、一閃さん、初ちゃん、店員さん……それじゃ、また」
「……ああ、“また”」
「約束だからね！」
　夏朝の声に、夏夜の声が重なるように続き、一閃が小さく眦を下げ、初もにっと笑ってみせる。
　そうして夏朝は、扉へとゆっくりと手を伸ばした――。

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