【バイオハニャード】

　昼下がりの作戦開始となりました。
「撃ちまくれ！」
「らじゃー、なのですー」
　巨大エロ・イーアールオーの巨大ロケットランチャーと、八神 修の操るドローンが投下する焼夷弾の波状攻撃。ちゅどばんどごごごんとゾンビを吹き飛ばしながら、ふたりはシーサイドタウンを進みます。
　しかし既に指令所が陥落したとあって、寝子島街道もキャットロードにもぎっちりと隙間なくゾンビが詰まっています。行き場を失い、ゾンビたちは互いの背中を踏みつけ合いながら高所へ高所へと登り、今ではビルの屋上にまでもゾンビがあふれている有様です。
　修は顔をしかめて、
「なんて光景だ。これが現実の寝子島だったらと思うと、ぞっとするな」
　家族や友人、大切な人がいる場所がこんなふうに壊滅してしまったとしたら、悔やんでも悔やみきれません。
　そんなことにならないよう、修はぺもぺもとスマホをタップし容赦なく焼夷弾をぶちかまします。ちゅどーん、どばーん！　宙を舞うゾンビたち。
「たーまやー、なのです～」
　油断するとあっという間に肉薄されてしまうもので、ただ撃ちまくっているだけでもいけません。エロは巨大化してもしなやかですべすべなおみあしを振り上げ、ぶおん！　っと蹴り抜くと、ゾンビはゴミのように吹っ飛び、距離が開けばロケットランチャーをどっかんばっかん！
「よし。こっちだ」
「どこへ行くのですー？」
　修には連絡架橋破壊作戦を支援するための、秘策がありました。そのために目指すべきは、
「寝子島変電所へ向かうぞ！」



　その頃。吉住 志桜里は、たまたま見つけた生存者を守り引き連れ、星ヶ丘マリーナにてガソリンを捜索中です。
「探せるところは全部探すわよ！」
「はいっ！」
「って、こっちにもゾンビが……！」
　すかさず火を吹くショットガン。反動を殺さずくるりと回って、ブーツの仕込み刀を叩き込みます。前から横から後ろから、続くゾンビに怯える同行者たちを叱咤し、志桜里は自ら切り込みます。
「血路は私が開きます！」
「い、今のうちよみんな！　吉住さんがゾンビを止めてるうちに……！」
「あ、ああ！」
「私はこっちを……」
「じゃあ、俺はあっちを見てくる！　持ちこたえてくれよ……！」
　すがるような視線へ、余裕の笑み。
「ご安心を。あなたたちには、爪痕ひとつもつけさせませんから」
　にっこり！
　彼女らの捜索は果たして、この状況を打ち破る逆転の一手となるのでしょうか……？



「落合、援護を頼むよ」
「了解！　まーかせて！」
　大地を埋め尽くすゾンビの群れ。
　落合 まゆらの操る戦闘ヘリは躊躇なくその真っただ中へと飛翔し、機銃掃射にミサイルを雨あられと撃ち込みます。そこかしこで爆炎が上がり、ゾンビはばらばらになって吹き飛びました。
「なにも気にせずぶっ放していいって、快感よね」
　ゾンビゲーでエンディングを迎えての二周目、強くてニューゲームは弾数無限アイテムも完備！　ってな感じ？　アニメで売れたらきっとゲームのお仕事も来るでしょうから、ここらで慣れておくのも悪くないかもしれませんよ（？）
「それにしても、１兆匹のゾンビとはね。地球の総人口より多いじゃないか」
　どうにも雑な現象にひとつぼやきつつ、サキリ・デイジーカッターも刃を携え突撃します。どかすか撃ちまくってる戦闘ヘリによるフレンドリーファイアが気になるところですけれど、彼に限ってはそんな心配も無用であります。
　マチェットを振るえば、しゅぱんっとワープ！　一気に近づいたらずばばばばっと嵐のごとき連撃で、ゾンビを細切れに斬って捨てました。
　押し寄せるゾンビの波が発する圧は無論のことすさまじいものの、サキリは容易にそれらをさばき、近寄らせません。それでいて前線にて大いに暴れる彼はゾンビたちを惹きつけ、囮として多大な役割を果たしています。
　無双の活躍を見せるまゆらもまた、言わずもがな。機銃とミサイルは発する音も巨大で、これまたゾンビの興味を引くのにうってつけです。
「さて、そろそろかしら？」
　まゆらがコクピットからちらり、見下ろしたのは寝子島連絡架橋。
　そう、ふたりは囮です。盛大にゾンビたちを惹き寄せ、橋からなるべく多くの敵を引き剥がし、その隙に別動隊を率いるウォルター先生が橋へと接近。爆弾をセットアップし、退避の後すみやかに爆破！　と、いった手筈なのです。
　そしてタイミングを合わせたかのように、橋からしゅぽんと上がる赤い火の玉。尾を引きながら飛び出した信号弾は、まばゆい光を発しながら空へと弾けて散りました。
「先生の合図だわ！　爆弾設置完了、退きましょう！」
「落合は先に行って、先生たちの退避を援護してくれ。僕はまだ、やることがあってね」
「そう？　分かったわ、気を付けてね！」
　まゆらのヘリは転進、橋のたもとでウォルター先生をピックアップに向かいます。
　サキリはゾンビを引きつけながら、通信機をＯＮ。
「こちらデイジーカッター。準備はいいかい？」
『八神だ、配置に着いた。いつでもいけるぞ』



　そして。
　ずずん！　地響きを伴うフラッシュが数度、橋のたもとで瞬きます。直後に炸裂する大爆発、走り抜ける衝撃波。爆炎が空を覆い、連絡架橋は悲鳴めいた軋みを上げました。
「ビンゴ！　爆破完了だねぇ」
　上空を旋回するヘリからその様を見下ろして、ウォルター先生はサムズアップ。操縦するまゆらも笑みを見せました。
「あら？　でも……完全には落ちてないみたい？」
「うん、あれほどの巨大な橋を、手持ちの爆薬のみで破壊するのは無理だった。だから、仕上げがいるのさぁ」
　先生の言葉に、まゆらはうなずきます。
「なるほどね。旋回するわ！」
　ヘリはどぎゅんと橋の近くへ。
　各所では、架橋へ完全なる破壊をもたらすべく、既に彼らがスタンバっておりました。
「よし、計算通りだ。この距離なら双眼鏡越しに橋を確認できる。架橋の基部を分解する！」
　寝子島変電所のすぐそば、最も高い配電塔の上から双眼鏡を覗き込み、修は意識を集中！　発動するろっこんが、爆発に伴う橋の崩壊を加速させます。
「エロも～、やるのです～」
　変電所の屋根を陣取り、巨大化エロもありったけのランチャーを橋目がけてぶっぱなします。少々遠いものの、神魂製ロケットランチャーには射程距離など関係ナシ！
　サキリは瞬間移動を繰り返し、その姿は架橋の上空にありました。
「僕の最大最強の一撃をお見せするよ」
　神魂製マチェットにろっこんの放つ威力を最大限に乗せ、気合一閃！　巨大な剣風が激突し、まとわりつくゾンビもろともにコンクリートを砕きます。
「ダメ押しのミサイル、いっけええええええ！！」
　まゆらの戦闘ヘリからも無数のミサイルが煙を引いて飛び、次々に直撃！
　ずごごごごご……！！
「やったぞ！」
　爆弾の威力に各員全力を込めた一斉攻撃を加え、寝子島連絡架橋は見事崩落。作戦完了！
　橋上に残ったゾンビたちは瓦礫に呑まれながら、あえなく海中へ没してゆきました。