犬ぞり猫ぞり、どっち乗る？｜リアクション

犬ぞり猫ぞり、どっち乗る？

恵御納夏朝は目の前に現れた二つのソリだった。
右が猫ソリの女の子、左が犬ぞりのおじさん。二人は親子らしい。
「ね、やっぱり猫ソリだよね？」
「いやいや。犬ゾリが良いぞ？」
　夏朝は二人の顔を交互に見て、その後ソリ引きの犬、猫達を見る。
「これを……僕に選べって？」
　どちらも可愛すぎる。
　二人のアピール相まって、迷いに迷った夏朝は震える手で猫ソリを示した。
「お願いします……！　おじさん、ごめん！」
「やったぁ。お父さんまたねえ～」
　がっくりと崩れるおじさんにもう一度頭を下げ、引き役の猫達に挨拶をする。
「可愛いッ、よろしくね」
　頭をなでなでした後、小さなソリに乗り込む。
「背中、大きッ」
もこもこの背中が少し丸みを帯びていて、それがどうしようもなく可愛い。
「それじゃ、出発するよ！　寝子島も良いけど、お勧めの場所に連れて行くってことでも良い？」
「うん、お任せするよ」
　女の子が頷いて、猫達はゆっくりとソリを引っ張り出した。
　不思議なことに大きな振動はなく、ゆっくり優雅な滑り出しだ。いつの間にかソリは空に浮いていて、眼下には氷の大地が広がっていた。
「凄い景色」
　夏朝が見惚れていると、女の子が手綱をきゅっと引っ張った。猫達の動きが止まり、上空でソリが停止する。
「気になるなら、乗ってみる？」
　夏朝はぱっと表情を輝かせた。
「良いの？」
　女の子は頷いて、ソリ引き猫の一匹をソリの上に来るように指示を出した。今の夏朝にとっては大きな猫が目の前に。
「尻尾からゆっくり上ってね。あんまりぎゅっとすると驚いちゃうから」
「おっけー」
　夏朝は真っ白でふわふわの尻尾をよじ登り、猫の背中から頭の上へ。耳の間に腰を下ろす。
「まさか猫さんに乗れる日が来るなんて」
　ぷち感動だ。
「このまま走るけど、大丈夫？」
「もちろん」
　ソリ引きの猫達は再び走り始めた。さすがに揺れが大きい。実際に猫達が走っているのでしかたないのだが。
「うつ伏せになると、安定するよ！」
　言われた通りに体勢を直すと、風の影響が弱まり、景色を見る余裕が出て来た。
「にゃぁ～」
　鳴いたのは夏朝が乗せてもらっている猫である。
「！　もしかして心配してくれてる？」
　言葉がわかるわけではないが気を遣ってくれているのがなんとなくわかった。
「ありがと。疲れたら休憩させてもらってね」
　しばらく遊覧を楽しんでいると、女の子が氷の大地にぽつんと建つ、民家の庭へ降り立った。
「ここは……？」
「休憩所なの」
　手綱を解かれた猫達は、我先にと民家の縁側から今へ飛び込んで行く。
「わっ、ちょっと」
　夏朝が乗っている白猫が勢いよく何かに頭を突っ込んだ。
「わっ！？　あ、あったかい？」
　もぞもぞと移動してふわふわな布団から顔を出す。そこは畳の居間で、夏朝が出て来たのはどうやらコタツのようだ。改めて覗いてみると、そこには猫団子が。
「か、かわいっ」
　と、そばでコタツ布団がもぞもぞと動いた。
「え？」
　顔を出したのは、まゆらだった。

　学校帰りで歩いていた青山絢は冷たい風を感じて足を止めた。
　すると目の前に現れたのは、
「！」
　巨大なソリに乗った、おじさんだった。木を削り出して作ったのだろう。彫刻などが施されている。それを引っ張っているのは大型犬だった。
「やぁ、嬢ちゃん。どうだい、うちの犬、可愛いだろう？」
「……えっと、そうですね」
　突然のことに驚いたものの、おじさんが言うようにふさふさした尻尾の大型犬は人懐っこく、絢に興味を持ったのか近寄ってきた。
　ぴんと立った耳の間を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。
「背中をねぇ、尻尾の方へ優しく撫でてやると喜ぶんだよ。あ、尻尾を触るのはやめといてくれな」
　おじさんのアドバイス通りに触ってやると、本当に喜んでいるようだった。
「どうだい、世界一可愛いだろう？」
　そして何故か、絢はソリに乗ることになってしまった。一度は断ったものの熱弁に折れたのだ。
「それじゃ、行くよ！」
　ソリが滑り出す。いきなり慣性を感じた。雪けむりを巻き上げながら、がくんと引っ張られる感覚。
「あっ」
　走りだと一気にスピードが上がった。
「ちょちょっ、待っ」
　喋っていると舌を噛みそうだ。
「す、凄い。なんか、ふわふわしてる感じが」
　と、辺りを見回して愕然とした。
「な……なんで飛んでるのー？！」
真っ青な空、白い千切れ雲と一緒に犬ソリが浮いていた。

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