ＡＩの方程式｜リアクション

ＡＩの方程式

ここはサイバーアンダーグラウンド。
退廃した『カラーレスシティ』は、暴走した管理ＡＩが操るロボットによって支配されている。
仙藤蒼はゆっくりと目を開けた。
暴走したＡＩが生み出したサイバードールの一人。レジスタンスの人間や管理ＡＩのコントロールを外れて、人類側に加担する「欠陥品」のサイバードールを「処分する」役目も担っている。今はまさにその仕事の最中というわけだ。
「てめぇ、余裕だなぁ！？」
　ここはどこかの武器倉庫。蒼と対峙するのは柄の悪そうな男達だ。
「のこのここんなところまで来やがって」
　蒼は無表情に目を細める。
「乗り込んで来ようとしてたんでしょう？　せっかくこちらから来てあげたのに」
「このクソAIがぁあっ」
　この人間は絶望的に頭が悪い。短絡的に殴りかかって来ようとする。
　蒼はそれを横に避けて、腰につけていたナイフで太ももを切り裂いた。
「ぐあっ」
　男が倒れ込むのと同時に一斉に襲い掛かってきた。
「消えろっ」
　相手のナイフを弾いて、腹に膝を打ち込む。
　背後からの攻撃には素早い回し蹴りで相殺。真正面からの敵は胸ぐらを掴んで背負い投げ。
「この女っ」
　蒼は駆け出した。ナイフを構え、すれ違い様に彼らの太ももに傷をつけて行く。足を負傷すれば動くのは困難だ。
「くそっ、やられた」
「なんなんだ、こいつは」
　これだけの人数相手に一歩も怯まない。管理AIのサイバードール、下っ端だと油断していたことだろう。
　蒼は攻撃の手を緩めない。体術とナイフを使い分けながら、確実に彼らの自由を奪っていった。
「ここにあなた達の居場所はないわ」
「くそ……」
　最後の一人が倒れ、しんと静かになった。
　と、背後で物音がした。
　無言で振り返りざまにナイフを投げる。
「ひっ」
　ナイフが突き刺さったコンテナの横で尻餅をついているのは十代後半くらいの少女だった。
「あなたは」
　彼女のことは知っている。名前はリリスとか言った。レジスタンスの少女だ。
「このっ」
　少女は飛び起き、メリケンサックをはめた拳を身構えた。彼女とは何度も対峙している。
「また痛い目を見たいの？」
「今度こそ」
「体術では勝てないわよ」
　向かって来るのはこれで何度目だろう。
「はああああっ」
　真正面から殴りかかって来るのはいつものことだ。それを受け止めて足払いをする。
「あっ」
　倒れたところで胸ぐらを掴み、腕の力だけで持ち上げる。いつものことだ。
「う、ぐぐ……」
「たまには奇襲でもかけたら？　ワンパターンだと」
　いつものセリフを口にしたその瞬間、彼女は体を揺らし、蒼の腹に思い切り蹴りを入れたのだ。
「！」
　一瞬、息が出来なるくらいの衝撃があったものの、吹っ飛ばされる前になんとか踏み止まった。
　解放されたリリスが早い呼吸を繰り返しながらゆっくりと立ち上がる。
「簡単にはやられないから」
「……」
　これはあえて同じ動きをして油断させたのだろう。立派な不意打ちだ。
「そう、面白いわね」
　蒼は素早くリリスの前に移動した。
「えっ」
「今日はこれで終わりよ」
　蒼はナイフの柄の部分を叩きこんだ。
「うぐっ」
　リリスはそのまま地面に倒れ込んだ。
「また、会いましょう」
「次は絶対に、負けないから」
　蒼は、微かに笑った。

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