ＡＩの方程式｜リアクション

ＡＩの方程式

落合まゆらはスリープモードが解除されると共に目の前の客に笑顔を向けた。
「こんにちは。依頼をお探しですか？」
　ここはヴィヴィット王国。ゲームの世界として存在している。まゆらはこの冒険ギルドの受付をしているAIキャストだ。
　徐々に今の仕事に物足りなさを感じ始めていた。
(はぁ、退屈)
　これは仕事なのだからそんな風に思うのはおかしい。しかし、思考の流れは止められない。
　もやもやした気分でいると、目の前に冒険者の格好をした若者が立った。
「こんにちは」
装備や背中に背負う武器などの状態から見て、新人冒険者だろうか。
「いらっしゃいませ。依頼の斡旋ですか？」
「……」
　じっと見つめられる。
「？」
　なんだろう？　まゆらが困惑していると、
「簡単な依頼あるかな？」
「では、悪害植物狩りなどいかかがでしょう。この先の池のほとりに大量発生してまして」
「良いね。ところで君、案内を頼める？」
「わかりました」
　受付の交代をして、若者と一緒にギルトを出た。
「ん？」
　歩き始めて数分、ふと彼のステータスを数値化してみた。
　どうやら新人ではなかったらしい。そこそに冒険慣れしていると見受けられる。
（だったらどうして私を？）
　経験者なら案内などいらないだろうに。
「うけつけさん、ココドってあれかい？」
　はっとした。前方に見えるのは霧がかかっている池の周辺にびっしりと生えるのは白い花を咲かせる植物が。
「はい。そうですね。あの霧は毒ですのでここから遠距離で魔法を放つのが一番効率が良いです」
　若者は顎に手を当てた。
「なら……君にお願いしよう」
　一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「お願い？」
「君は炎系の魔法が得意だって、聞いてるんだけど」
　唐突に、頬に触れられた。
　そこでまゆらの中の情報が更新された。
　どうやらまゆらは記憶とスキルを封印され、冒険者ギルドの受付に封じ込められた伝説の魔法使い、らしい。彼の言葉のおかげか、その記憶が一部蘇った。
　手のひらを見ると、炎を模した文様が浮かび上がっている。
「訓練をすればきっと戻るよ」
　彼の勧めもあり受付から魔法使いにジョブチェンジ。彼、オスティンと共に旅に出ることになった。

　とある国で悪害モンスターを倒し、王様からの礼を受け取って、二人はすぐに国を後にした。
「これから森に入るよ。疲れてないかい？」
「ええ」
　にこりと笑うオスティン、まゆらはどきりとして立ち止まる。
「まゆら？」
　心配そうに歩み寄ってきて、いきなり額に手を当てられる。
「！」
「熱でもあるのかい？」
　あきらかにおかしい。“どきどき”する。AIにこんな感情はないはずなのに。
「参ったな。薬も買ってくればよかった。君に倒れられたら僕の旅が終わってしまうよ」
「？　なぜ？　元々あなたは一人で旅をしていたのに」
「それは、この数カ月はずっと一緒だったからもう君のいない旅は考えられないよ。相棒だろう？」
　胸の辺りがぎゅっと締め付けられるようで、頭がくらくらする。時々走るノイズは何を意味しているのだろう。

―私が彼に対して抱いている感情（恋心）は、深刻なバグなのでしょうか？―

「これからも頼むよ。まゆら」
　オスティンはいつもの笑顔で、笑った。

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