ＡＩの方程式｜リアクション

ＡＩの方程式

篠原翠響は意識の浮上と共に目を開けた。
そこは放課後の、学校の教室だった。がやがやと他の生徒達が雑談に花を咲かせている。
「ここは」
　一瞬混乱したが、自分の立場を思い出す。
　ここはゲームの世界、色神学園だ。翠響は色神学園中等部３年。成績優秀、部活では新体操部で全国大会で優勝経験あり。
「って、なんだか現実の自分に似てる気がするわ」
そうぼやきながら自分の姿を確認する。寝子中はセーラー服なのだが、この学園はブレザーらしい。ボレロのついたブラウスにリボン、チェック柄のスカート。中々可愛らしい制服だ。
「翠響ちゃん」
　翠響の横に立ったのは、同じクラスの女子だった。飯野ユイカ、同じ新体操部に所属している。
「部活、行く？」
　無表情気味にそう問うてくる。
「うん。行こう」
　するとユイカは微かに笑った。少し嬉しそうだ。
　彼女はAIキャストである。出会った頃はただただプレイヤーと関わるだけの無表情無感情の一キャストだったが最近はこうして笑ってくれるようになった。
　部活に勤しみ、放課後も一緒に帰路についた。
「翠響ちゃん、また上手くなったよね。皆見惚れてたよ」
「新しい技を取り入れたから。それより、ユイカのあの中盤のアプローチは何？　レベル高すぎるのよ」
　二人は新体操部二大エースと呼ばれるほど、実力が近いのだ。
　その時、スマホに入れている異常感知アプリの警報が鳴った。確認すると、妖怪が都市の中に入り込んだ、とのことだった。
「翠響ちゃん」
　二人はお互いに頷き合う。
　どうやら妖怪ハンターの出番のようだ。
「ユイカ、場所は？」
　翠響がそう問うた時、近くの民家の塀がどーんと言う音と共に破壊され、頭から二本の角を生やした男が道を塞いだ。
「見つけたぜぇ、人間よ」
　人間ではありえない巨大な体、口から零れる牙と青黒い体、それはまさに鬼の姿だった。
「あんまり強くなさそうだよ！　翠響ちゃん」
　鬼の頭に表示される数値からレベルが読み取れる。二人がトップレベルというのもあるが、この鬼に負ける要素はなさそうだ。
　翠響は一度顔を伏せて、ゆっくりと顔を上げた。
　体が浮遊感に包まれ、軽さを実感する。
「下がって、ユイカ」
　振り下ろされる巨大な腕、翠響がバックステップで避けるとその部分のアスファルトが粉々に砕け散った。と、その時。
「痛っ」
　アスファルトの破片が頬を掠めたのだ。
「翠響ちゃんっ」
　尻餅をついた翠響をユイカが起こす。
「大丈夫？　血が」
「かすり傷だから」
　笑って言うと、ぴりりとした痛みが走った。
「ごめんね、私は……これくらいしかできないから」
　ユイカが翠響の足に触れ、目を閉じる。彼女のろっこんが発動した。
「充分よ」
　翠響はゆっくりと立ち上がった。近づいてくる鬼、再び腕を振り下ろそうとした瞬間。
「させないっ」
　翠響は高く跳躍して、体を捻り、足に力を込めた。
「はっ」
「がはっ！？」
　回し蹴りは見事に決まった。頭に直撃し、真横に吹っ飛ぶ。翠響の身体強化とユイカの身体補強により強化されている。かなりの衝撃だろう。
　動かなくなった鬼、そして翠響が着地するといきなり抱き締められた。
「え？」
「よかった」
　見ると、AIであるユイカの目に光るものが。
「あ」
　自分に向けられた強い感情はAIにとってエラーに近いものがあるのだろう。しかし、翠響は嬉しく思った。　

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