これ、落とし物ですか？｜リアクション

これ、落とし物ですか？

タスニムは湿原が広がる世界に立っていた。遠くに地平線が見える。
「うえ、ぬちゃぬちゃしてんじゃねえか」
　まごうことなき異世界である。
「って、鞄どこ行ったよ！？」
　見ると、近くの泥沼でアタッシュケースが沈みかけていた。
「させるかぁっ！」
　慌ててそれに手を伸ばし引っ張る。
「うおっしゃあっ」
　危機一髪だったが、どうにか救出することができたようだ。
「へへ、これは俺のものなんだからなぁ」
　と、タスニムの頭上に海の持つ壺が出現した。
「んあ？」
　それはゆっくりと落下し始め、
「うおおおおっ」
　タスニムの顔面に直撃した。
　ばしゃっと紙面に倒れ込む。
「ぐ、ぐそお。ぜってえわたさねえぞぉ」
　アタッシュケースを抱えながら体を起こす。目の前にスケッチブックに描かれた文字が飛び込んできた。
（大丈夫？）
　海が少し申し訳なさそうにしていた。
「お、おう。こんくらい平気だぜ。ん？　嬢ちゃん、もしやネコジマのひとかい？」
『そう。あなたも？』
「あっしは……」
　今の自分の姿は人に近い、そう言っておいた方が無難だろう。
「まあ、そんなところだな。ところで一人かい？」
　タスニムは彼女をじっくりと観察しながら問う。
（可愛らしい子じゃねえか。カーッ、酌させてぇ）
『落とし物を拾ったので持ち主を探してる』
「ほうほう、そりゃ大変だ。そうだ、一緒に探してやろうか？　こう見えておれぁ、人捜しが得意でな。そうだい、嬢、ちゃん？」
　すでに海の姿はなく、壺もなくなっていた。
「おう……？」
　困惑していると、後ろに気配を感じた。
「おう、なんで急に後ろに……」
　そこには、湿った地面から伸びた触手が蠢いていた。
「うおおおおッ」
　素早く伸びてきたそれの攻撃を避けながら、ひたすら走る。
「くっそおおッ」
　いっそうぬかるんでいる地面に足をとられ、転んたのだが、倒れ込んだのはアスファルトだった。
「いって。なんだ突然」
　目を開けると、そこは寝子島のようだった。
「んあ？」
　そして、いつの間にかアタッシュケースを持っている若い紳士が一人。
「よかった。もしや、あなたが拾ってくれたのですか？」
「……」
　タスニムはすっと息を吸う。
「へい、もちろん！　旦那様に確かにお届けしなきゃならねぇんで、僭越ながら私めがお持ちいたしましたってんで」
「おお、ありがとうございます」
　報酬はもらえそうだ。しかし、
（くそおおおおッ）
　心の中で悔し気に叫んだ。

　夏朝はドラゴンの尻尾を切り落とし、地面に着地した。
「ふう」
　片手剣を柄にしまう。
「命までは盗らないよ。……さて、あの子は無事にげられたかな」
　横たわったドラゴンを置いて森を抜けると、目の前に洋館が現れた。
「あ？」
　玄関の量扉から出て来たのは、和洋折衷なドレスに身を包んだ、ふわふわ猫耳に七つの猫尻尾を持つ綺麗な猫又の女性だった。彼女の周りには猫がたくさん。
　癒しの塊だ。
「す、凄い」
　歩み寄ってきた彼女、夏朝は反射的にパンティを取り出した。
「もしかしてこれ」
「あら、それ…うっかり落としていたのね」
　彼女は嬉しそうに微笑んだ。

　海は呆然としていた。壺を抱えながら異世界を渡り歩き、着いた先はこの場所、巨大遺跡の扉の前だった。まるでダンジョンのようだ。直感的にこの中に持主がいるような気がする。
（行くしかない、よね）
　思い切って中へ足を踏み入れた。
（く、暗い）
　幅の広い廊下を歩いていると、前と後ろから足音が。
（えっ、あっ）
　海を挟んで対峙したのは頭に角を生やした魔王らしき人物率いる悪魔軍。そして、片や鎧と剣の勇者率いる戦士達。
「今日こそ、決着をつけよう、勇者よ」
「当然だ」
　海はあまりのことに交互に彼らの顔を見る。盛大に巻き込まれ過ぎだろう。
「勇者よ、随分と余裕だな」
「お前達こそ」
　海を挟んで会話を始める彼ら。どうしていいか分からずにいると、
「おねーさん」
　見ると小さな女の子がこちらを見上げていた。
「それ、届けてくれてありがとね」
　三角の黒い帽子を被った彼女の姿は小さな魔女と言った様子。
『あなたが持主？』
「そ。ほんとにありがと」
　壺を床に置くと、その瞬間、海は寝子島のどこかに立っていた。

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担当マスター：高城ヒト
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大変な目にあった人もいれば意外な出会いをした人もいましたね！

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