これ、落とし物ですか？｜リアクション

これ、落とし物ですか？

「せっかくあの子の分まで用意したのに」
　修はどうしてもお礼をしたいという彼女に誘われて、ティールームへ通されていた。半ば強引だったが。
　用意されたのはケーキと紅茶である。
「さ、どうぞ。お話相手が見つかって嬉しいわ」
「いえ、拾っただけなので」
「これ、ラッキーパンティなの」
「……ラッキー、パンティ？」
　それ以上は聞きづらい。
「ラッキーパンティは青空の下に逆さに干すのが一番なの。風に飛ばされなければ力が高まるのよ」
　しばらくの間、話に付き合った。
　

夏朝は片手剣で大量の子ゴブリンを薙ぎ払った。
「はああっ」
魔法効果も付与しているらしく、突風が吹き斬撃が彼らを直撃し吹っ飛ぶ。横からの棍棒攻撃は盾で防ぎ、そのままそれで殴る。
「がはっ」
「よし！　あ！？」
　足元の地面が盛り上がったかと思うと、そこからモグラのような魔獣が飛び出てきた。しかし、夏朝の反応は早かった。
「えいっ」
飛び出してきたところ、顔を踏みつける。踏み台にして、ジャンプ。ゴブリンの群れを抜けて走り出す。
「ん？」
　と、大きな影が空を舞った。見ると大きなドラゴン飛翔していた。
「ええ……」
　さすが異世界といったところか。
　ゴブリンの追手をかいくぐり、森へと飛び込んだ。ドラゴンが夏朝を狙って旋回しているのだ。
「もしかするとパンティをピンポイントで狙ってる可能性も」
　と、目の前の木の陰から誰かが飛び出してきた。
「あっ！？」
　とっさに踏ん張るが、間に合わなかった。大きな何かを抱えた人影と正面衝突。お互いに尻餅をついたのだった。

海は尻餅をついて、壺を落としてしまった。地面が土だったので割れずには済んだようだ。
(痛い)
目を開けると、夏朝が座り込んでいた、どうやらぶつかったのは彼女のようだ。
「ごめん、ごめん、大丈夫？」
　夏朝に問われ、海はこくりと頷いた。彼女はすぐに壺へ視線を向ける。
「これは……？」
　海はスケッチブックに『落とし物の主を探してる』と書いた。
「これ落とし物なの？　そうなんだ、大変だね。でも、僕も落とし物を預かってるんだ」
『拾ったものは？』
「えっ」
夏朝は微妙に視線をそらした。
「まあ、その人にとっては大事なもの、かな。僕はこれを必ずその人に届けるって誓ったから」
　海は頷いた。
『私も最後まで責任を持って届けたい』
「うん、頑張ろうよ」
　と、森の木々がざわつき始めた。上を見ると、ゆっくりと降りてくるドラゴンの姿が。
「とにかく、ここはまずいっ」
　夏朝は壺を抱え直した海を連れて、駆け出した。やり過ごせればと思っていたが、無理そうだ。
「逃げて、僕が引き受けるから」
　海は頷いて、駆け出した。
　森を抜けて、地面がふわふわする謎のエリアに入った。
（何これ）
　足を取られて壺を落としてしまう。
　と、足元に何やら無数に動くものが。
「壺だー、奪え―」
（えっ）
　それは三角帽子を被った小人だった。壺を数百人で持ち上げて、どこかに運んでしまおうとしていた。
（それはだめっ）
　壺を取り戻そうとした時、壺の中に吸い込まれてしまう。
（あっ、またっ）
　そして、再び別の異世界へ。

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